【エルサレム発】イスラエルの論理「ただ平和がほしいだけ」

 歴史都市エルサレムを象徴する旧市街地の南東角にある「嘆きの壁」(Western Wall・写真)は、ユダヤ第2神殿の跡地だ。西暦70年、ローマ帝国の猛攻に遭ってユダヤ王国は滅び、神殿を支えていた西(Western)の「壁」だけが残った。歴史上、ユダヤ民族がこの地に存在した証として、民族の精神の拠りどころとなっている。聖地としてイスラエルが譲らないゆえんだ。

就役宣誓式に臨むイスラエル新兵(「嘆きの壁」前ですべて筆者撮影)

就役宣誓式に臨むイスラエル新兵(「嘆きの壁」前ですべて筆者撮影)

 皆兵制のイスラエルで訓練を終えた新兵は、この「嘆きの壁」の前で就役宣誓式(イノギュレーション)を行う。祖国を守る軍人となることをこの「壁」に誓うのである。筆者が訪れた時は「ゴラニ部隊」の宣誓式がとり行われていた。「ゴラニ部隊」はガザに突撃する消耗の激しい部隊だ。

 「ハマス」や「イスラム聖戦」の対戦車ロケット砲がどこからともなく発射され、迷路のような路地に誘い込まれた陸上部隊をブービートラップ(地雷の一種)が吹き飛ばす。ゲリラ戦で正規軍が苦戦するのはガザとて同じだ。

 就役式を終えたある新兵(20歳)にインタビューすることができた(ほとんどの新兵は「上官から『国防のことは他言するな』と言われている」として応じなかった)。

Q:ガザ侵攻への批判が国際社会にあるが?
A:必要なものだった。ハマスはロケット弾を撃ち込んできてイスラエルの安全を脅かしている。国を守るための戦いだった。軍の兵隊は食事当番であろうとも国を守るために兵役に就いている。

Q:イスラエル軍の攻撃が厳しいのでハマスが猛反撃してくる、との見方もあるが?
A:イスラエルはただ平和がほしいだけ。我々の市民を守るためにハマスの攻撃を止めさせるのは軍隊として当然のことだ。

ユダヤ教徒は壁に向かってひたすらに旧約聖書を誦読する。

ユダヤ教徒は壁に向かってひたすらに旧約聖書を誦読する。

過剰防衛は凄惨な歴史が刻み込んだDNA
 
 「嘆きの壁」を含むエルサレム旧市街地は、国連のパレスチナ分割決議(1948年)によりヨルダン領となる。イスラエルが第3次中東戦争(1967年)に勝利し“奪還”するまで、ユダヤ民族の聖地は、鉄条網のフェンスの向こう側にあった。

 ヨルダン軍を撃破し旧市街地になだれ込んだイスラエル兵は、「嘆きの壁」に頬ずりし口づけした。これは作りものの美談ではない。文民も兵士も、ユダヤ教徒は壁に頬ずりしたり、口付けしたりする。就役宣誓式を終えた新兵たちも自らの顔を壁に密着させていた。

 ユダヤ王国崩壊後、ディアスポラ(離散の民)となった民族は1,900年間にわたって、世界を彷徨(さまよ)った。19世紀には東欧でポグロムの嵐が吹き荒れ、多くのユダヤ人が虐殺された。20世紀にはナチス・ドイツによるホロコーストであやうく民族が根絶やしにされかかった。国土を持たなかったことによる悲劇である。

 国土・国民に攻撃が加えられた時、あるいは攻撃されそうな時、過剰なまでの防衛反応を示すのは民族に刻み込まれたDNAだ。

 イスラエルによるパレスチナ自治区(ガザ・西岸)攻撃に対して国際世論は批難を浴びせる。だが「我々がホロコーストに遭っている時、国際社会は何をしてくれましたか?」というのがユダヤ民族の論理だ。彼らが想像を絶する凄惨な歴史を背負っていることを理解する必要がある。

 「イスラエルはただ平和がほしいだけ」と答えた新兵の言葉は頷ける。

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