「入社2ヵ月でなぜ娘が自殺しなければならなかったのか?」 苛酷な勤務の果てに自らの命を絶った元和民社員の両親が、会社や創業者の渡辺美樹氏(現参院議員)の責任を追及する裁判の第1回目口頭弁論がきょう、東京地裁であった。
原告は大手居酒屋チェーン和民の正社員だった森美菜さん(享年26歳)の父親・豪さんと母親・祐子さん。
被告は美菜さんを直接雇用していたワタミフードサービス、親会社のワタミ、ワタミ創業者の渡辺美樹氏(現参院議員)ら。
訴えによると、2008年4月、和民に入社した美菜さんは月100時間をゆうに超える残業と苛酷なノルマのため肉体的、精神的に追い込まれて自殺した。会社は安全配慮義務を怠ったとして両親は損害賠償1億5,300万円を請求した。
損害賠償請求額のうちには懲罰的慰謝料が含まれる。ワタミが同じような間違いを犯さないように制裁の意味を込めた。日本の過労死裁判では初めて組み込まれた。
原告の訴えによると和民の勤務実態は以下のように酷いものだった―
・恒常的な長時間労働
・業務終了後、始発電車まで店内で拘束(タクシー代を支給せず)
・「渡辺美樹理念集」のリポート提出(寮でリポートを書くため時間外勤務にはカウントされず)。
・勤務時間外の研修会出席。研修会での理念集テストは満点を取るまで強制的に繰り返されていた。
美菜さんは2008年6月、社宅の入るビルから飛び降り自殺した。入社からわずか2ヵ月後のことである。手帳に「体が痛いです。体が辛いです。どうか助けて下さい」と書き遺して。
ワタミ側は答弁書で原告の訴えを否認している。原告代理人弁護士によれば、(動かぬ証拠としての)書類が残っていないものはすべて否認しているという。
だが、神奈川労働局は、美菜さんの過労死を「労災」認定した。残業時間が月100時間を超えていたことを認めたのである。
渡辺美樹氏は自らが表した理念集で「365日、24時間死ぬまで働け。できないって言わない」と述べ、過重労働を強いていた。原告側が渡辺氏の責任を問うているのはこのためである。
口頭弁論が始まる10分前、父・豪さんと母・祐子さんは入廷した。二人とも沈痛な面持ちだ。
豪さんは用意してきた陳述書を叫ぶような大声で読みあげた―
「娘が突然放り込まれた労働環境は娘の人権、生活権を奪うほどの苛酷なものでした。このような労働環境を作り運営した渡辺美樹氏ら経営陣とワタミという会社が娘を死に至らしめました」
「絶望的な状態で死んでいった娘の魂が安らぐことを切に願っています。娘の魂を安らかにする判決をお願いしたいと思います」。
きょうの口頭弁論に出廷しなかった渡辺美樹氏は、大阪で開かれた就職説明会に出席していたそうだ。まさか学生相手に「死ぬまで働け」とは言ってはいないだろう。