原発の新安全基準を検討していた原子力規制委員会の専門家チームが31日、骨子案をまとめた。「沸騰水型(BWR)原子炉のベントフィルター装着」「防潮堤のかさ上げ」「第2中央制御室の設置」「活断層上での原子炉建設禁止」……
一見、従来より厳しくなったかに思える。ところが抜け穴だらけ。解釈や規制庁の運用しだいで、電力会社は原発の再稼働も可能だ。
国民の意見を聞くパブコメがわずか2週間というのも拙速感が否めない。
「原子力規制を監視する市民の会」が1日、国会内で院内集会を開き、井野博満氏(東大名誉教授)、後藤政志氏(元東芝原発設計技師)らが「新安全基準」の危険性と欺瞞性を指摘した。両氏ともストレステストの評価委員で最も厳しい見解を示していた。ゆえに今回の専門家チームから外されたものと見られている。
井野氏は「事業者(電力会社)が値切ろうとしている。規制委員会と事業者が一体となっている」と話す。値切るとは重要施設の設置期限を延ばしてもらったりすることだ。防潮堤がかさ上げされていなくても、ベントフィルターが装着されていなくても、電力会社は原発を再稼働できることになる。
活断層の定義もいい加減だ。30日の記者ブリーフィングで筆者の質問に対して原子力規制庁は「活断層の露頭(※)が重要施設の真下にきている場合は建設できない」と答えた。
ところが原子炉の真下に露頭がなくても、原発敷地内あるいは敷地の近くに露頭があれば、原子炉が乗る地層も連動して陥没したり隆起したりするのだ。「疑わしきは活断層」とする後藤氏の説の方が理にかなっていて説得力がある。
新基準は7月18日に施行されるが、いくらでも骨抜きにされるようになっているのだ。
首相官邸前で「原発反対」の声をあげる市民に「新安全基準」について聞いた――
八王子市に住む大学生(女性・23歳)は悲観的だった。「原子力規制委員会の独立性は全くない。事業者(電力会社)と癒着していると思う。それでも廃炉という選択をしてほしい。パブコメ自体が周知されていない。自分も原発事故以降初めてパブコメを知った。パブコメはさっと書けるわけじゃない。(国民に話を聞いたという)建前に過ぎない」。
先月、4人目の孫が誕生したという男性(会社経営60代・大田区)は、新安全基準なんぞ端から信用していない、という口調で語った。「規制委員会は“政界で一番厳しい安全基準”と口では言ってるが、抜け穴だらけ。パブコメは形だけ国民の声を聞いたことにするためだ。」
この日、原子力規制庁の審議官が活断層の検討資料を日本原電に漏えいしていたことが明らかになった。規制庁の体質は、電力会社の意向を汲み原発のトラブル隠しに懸命だった原子力安全・保安院のままだ。福島の教訓とは何だったのだろうか。 《文・田中龍作 / 諏訪都》
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(※)露頭
地層や岩石が露出している部分。異なった地質の断層が見える場所。