「労働者の切捨て」と「国際化に逆行」。沈みゆく日本を象徴するような出来事が国際電話の窓口で起きている。9月末でKDDIを雇い止めになった国際オペレータたちが14日、新宿でauのボイコットを呼びかけた。
街宣活動を行ったのは、KDDIの100%出資子会社 であるKDDIエボルバで国際電話オペレータとして働いていた非正規労働者の女性たちだ。彼女たちは正社員と均等の待遇を求めて労働組合(KDDIエボルバユニオン)を結成した。2006年のことだ。
早速、会社側の組合潰しが始まる。ユニオン幹部を呼びつけ長時間拘束し尋問まがいのことまで行った。国会の院内集会に参加し現場報告をしたユニオンの委員長には、懲戒処分までチラつかせたほどだ。
08年7月、会社側は合理化の一環として「国際オペレータ通話を2010年3月31日を持って廃止する」と発表する。ユニオンメンバーの職場を無くすというのだ。究極の組合潰しに出たのである。
国際オペレータ通話が廃止されると緊急時に利用者は著しく不便を生ずる(後段で詳述する)。
ユニオンは国会議員に呼びかけるなどして国際オペレータ通話の必要性を訴え続けてきた。今年2月には通信事業を所管する総務省の原口一博大臣にも要請した。原口大臣は存続に前向きの見解を示した。国際オペレータ通話の廃止は、国会や霞ヶ関でも看過できない問題として扱われるようになったのである。
事態を受けて、KDDIは4月1日以降も国際オペレータ通話を継続することにした。ところが束の間だった。9月30日で国際オペレータ通話サービスのほとんどを廃止したのである。総務大臣の交代を見透かすかのようだった。
国際電話オペレータとして働いていた非正規社員の約50人は全員、同日付けで解雇となった。
【窓口狭め国益損なう】
国際オペレータ通話の廃止で困るのは、前段で述べたように海外で緊急時が発生した場合だ――
例えば親族がニューヨークで交通事故に遭ったとする。これまではニューヨークの病院名と住所が分かれば、KDDIのオペレータがつないでくれていた。米国の電話会社に依頼し電話番号を割り出していたのである。国際電話会社同士の「相互援助システム」である。筆者も外国の組織や機関の電話番号を知りたい時、KDDIのオペレータに助けてもらっていた。
ところがKDDIは10月1日から、この「相互援助システム」から外れた。「0057」に電話をかけると電話番号を調べてはくれるが、オペレータがインターネットで検索するので、利用者が自分で調べても同じだ。
外国の相手先の電話番号が割り出せないのは、平時であっても不便だ。「住所、会社、組織、個人の名称は知っているが、電話番号を知らない。でもどうしても電話をかけなければならない。インターネットで検索しても分からない・・・」。これまではKDDIのオペレータに頼んで割り出してもらっていたが、それも不可能になった。
相互システムなので、外国の利用者が日本の会社や組織の電話番号を割り出してもらうこともできない。
日本からKDDIを通して利用できていた海外へのコレクトコール・サービスも9月30日で廃止となった。外国の電話会社に直接かけてコレクトコールを頼み、しばらく待たなければならない。外国の電話会社に電話をかけてオぺレータと話しができる日本人が果たしてどれほどいるだろうか。
「観光立国」などと称するからには海外との窓は大きく開けておく必要がある。にもかかわらず通信の窓口を狭めるのは国益を損なうことになる。KDDIは日本を代表する国際電話会社だからだ。
国際オペレータ通話の廃止は、労働者の切捨てとセットになっているだけに深刻な問題である。
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