河野太郎とスーチーさんと軍事政権

京都市長選挙で自民党が推す候補の応援に駆け付けた河野太郎氏。=2020年1月、京都駅前 撮影:田中龍作=

 国際世論は民主化運動のシンボルであるスーチー国家顧問を拘束したミャンマーの軍部に批判的だ。もちろん田中とて、民主政治を武力で弾圧することは、許されるべきではないという考えだ。

 だが世界にはスーチーさんの拘束を喜ぶ人々が少なくとも数十万人いる。

 ロヒンギャの人々である。ミャンマー国軍により村を焼き払われ、娘をレイプされ、生きたままの赤ん坊を炎の中に投げ込まれるなどした。

 彼らは大量難民となって隣国のバングラデシュに逃れた。難民流出は2016年に始まり、国軍のロヒンギャ掃討作戦が始まった2017年にピークとなった。その数74万2千人(UNHCR=国連難民高等弁務官事務所まとめ)

 バングラデシュの難民キャンプで田中がスーチーさんのことを聞くと、ロヒンギャの人々は、一様に険しい顔になり口を極めた。「スーチー・ノー」「スーチーは地獄に堕ちろ」という趣旨のフレーズを吐き捨てるように言った。

 ノーベル平和賞を受賞したはずのスーチーさんは国軍の蛮行を認めなかったのだ。

 「国軍とARSA(アラカン・ロヒンギャ救世軍=イスラム武装勢力)の衝突でARSA側に10人の死者が出た」としたのである。

スーチーさん。祖国の民主化を願うミャンマー難民にとって「希望」である。=2009年、都内 撮影:田中龍作=

 AFPはスーチーさん拘束に関するロヒンギャ難民のコメントを次のように伝えた―

 クトゥパロン難民キャンプのリーダーは、「私たちのすべての苦しみの原因は彼女だ。祝わない理由がない」。

 また、近隣難民キャンプのリーダーは「彼女が最後の希望だったのに、ロヒンギャに対するジェノサイドを支持した」と語ったという。

 田中が難民キャンプを訪れた時、難民たちは異口同音に「ミャンマーに強制送還されるくらいだったら死んだ方がマシだ」と言った。

 だがミャンマー政府は難民問題を頬被りしたかった。

 スーチー国家顧問はNikkei Asian Reviewのインタビューに「難民問題で投資が減速する」とまで答えている。

バングラに漂着したロヒンギャ難民。住み慣れた地を脱出した少女(当時11歳・手前)は絶望しきっていた。=2018年1月、サブロング収容所 撮影:田中龍作=

 企業進出のため軍事政権を支えてきたのは日本政府だった。

 時の外相はミャンマーを訪問し、難民帰還のため300万ドル(約3億3千万円)を支援する約束をした。外相とは、次期総理候補と目されている河野太郎氏だ。

 河野外相はミャンマー政府が建設を進める帰還難民の収容施設を訪問したりした。難民帰還を促したのである。

 河野訪問を機に早期の難民帰還説が飛び出たりした。

 当時の国際世論は「ロヒンギャを強制送還させてはならない」だったにもかかわらず、だ。

 日本政府の後押しによって、ミャンマーの軍事政権は権勢を維持し続けてきた。そして今回のクーデターとなったのである。

  ~終わり~

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