ヨルダン川西岸北部のアル・ファラ難民キャンプ(約8千人)は、山の斜面に張りつくようにして存在する。
9日朝、アル・ファラ難民キャンプにイスラエル軍が大挙して侵攻してきた。同キャンプはファタハとハマス(兄弟分のイスラム聖戦含む)が混在する。
地雷を手にしていたファタハ戦闘員のサエルさん(36歳)は、胸に10発も弾丸を撃ち込まれた。
倒れたサエルさんを助けに行こうとしたラミさんも6発の弾丸を撃ち込まれた。ラミさんは戦闘員ではない。難民キャンプの一住民に過ぎない。
サエルさんは即死。ラミさんは翌日、病院で死亡した。この他5人の戦闘員がイスラエル軍に射殺された。5人はファタハだったりハマスだったりする。
たまたまかもしれないが、「山」「ファタハとハマスの同居」「非戦闘員の協力」は、今後の西岸の戦いを暗示しているように思える。
東京23区の半分の面積しかないガザで苦戦するイスラエル軍は、ヨルダン川西岸に戦域を拡大させている。同時多発で複数の難民キャンプを襲撃したりする。パレスチナ住民が殺されない日はない。
残虐性もさることながら、これは無謀な戦争である。以下理由を述べる―
西岸はガザの十倍以上も広い。無数に山がある。山だらけと言ってよい。地形も複雑である。ガザのようにペタッとした平地ではないのだ。
西岸で全面戦争に突入したら武装勢力は山に籠って、山から出撃するだろう。神出鬼没となる。
山にトンネルを掘られたらイスラエル軍はガザとは比較にならないほど手を焼くだろう。難攻不落だったアフガニスタンの人工洞窟(トラボラ)がいい例だ。
山に誘い込まれたイスラエル軍を数々のトラップが待ち受ける。ベトナムのジャングルに苦しんだ米軍の二の舞を演じるのだ。
イスラエル軍は武装勢力に関わったと見なしたパレスチナ住民を容赦なく連行する。現在は難民キャンプ内にほぼ限られている。
だが全面戦争となって戦域が拡大すれば、協力者の範囲は広がり、人数も格段に増える。そうした人々を連行すればイスラエル軍はますます敵を増やす。
さらにイスラエルにとって厄介なのは、冒頭リポートしたようにファタハとハマスとイスラム聖戦(ハマスの兄弟分)が、「反イスラエル」の一点でまとまっていることだ。民族統一戦線と言ってもよい。
限定核はじめ大量破壊兵器は使えない。ユダヤ人入植地が西岸の至る所にあるからだ。それもパレスチナ自治区に隣接する。核を使おうものならイスラエルはユダヤ民族をも殺傷することになる。
イスラエル軍は泥沼となった西岸で足を取られるのである。米国がベトナムの泥沼にはまったように。
~終わり~
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【読者の皆様】
ドライバーへは危険手当も含めて1日600ドル(約9万円)も払わなければなりません。
ホテル代も入れると1日平均10万円を超えるコストになります。毎日取材に出るわけではありませんが、1ヵ月に換算すると途方もない金額になります。
イスラエル軍の銃口よりも借金に怯えながらの取材行です。
ガザに隠れがちですがヨルダン川西岸でも着々と民族浄化が進んでいます。
ジャーナリストがこの世の生き地獄を伝えなければ、民族浄化と虐殺は歴史上なかったことになります。