友人を失いたくない 分断を喜ぶのは権力者だ

大勢の人々が原発再稼働反対を訴えて国会議事堂前に押し寄せた。=2012年、撮影:田中龍作=

 実際にあった話だ。福島原発の事故(2011年)を受けて、夫婦同然に連れ添ってきた男と女の意見が対立した。男は原発推進派。女は原発反対派である。

 二人の溝は原発を起点に他の政治問題、社会問題、果ては人生観にまで広がった。

 「溝が埋められないところまで大きくなって彼とは別れました」。女性は目を赤くしながら語った。

 大量の人間が殺戮され、レイプされ、少年たちが連れ去られる戦争をめぐっては、原発以上に社会観や人生観が問われる。認識の相違、意見の対立は先鋭化する。

 身近な例を挙げると、ウクライナ戦争である。

 凄惨な映像がテレビやネットからこれでもかというほど飛び込んでくる。現地から遠く離れた地にいる日本人も熱くなる。

 日本をはじめとする西側メディアは「ロシアに非がある」とする。ロシア陣営は「米国が追い詰めた」と主張する。

住民が次々とロシア軍に射殺される光景を見ていた神父は、自らの手でマスグレイブを堀った。珍説が示すようにウクライナ軍が堀ったのではなかった。=2022年、ブチャ 撮影:田中龍作

 西側メディアには、根拠がでたらめなまま侵攻したブッシュのイラク戦争(2003年)を無批判に垂れ流した前科がある。

 今回、ウクライナ情勢でまっとうな報道をしているが、信頼されていない。ロシア陣営のプロパガンダが支持される下地でもある。

 その結果、荒唐無稽という他ない言説が流布され、計測不能なほど多数の人々がそれを信じる羽目となった。「ブチャの虐殺はウクライナ軍の自作自演である」とする珍説である。

 多数の住民が部屋の窓から建物の陰から、神父が教会の2階の窓から、ロシア兵の蛮行を目撃していた。

 田中はじめ世界中のジャーナリストがブチャに通いつめ、神父や住民たちから証言を得ている。「ウクライナ軍の仕業だった」などという話は一言も聞いたことがない。

ブチャで虐殺を繰り広げていたロシア軍が病院の部屋のドアを蹴破って入って来た。それでも医師は生き残った人々の治療を続けた。=2022年、ブチャ 撮影:田中龍作=

 反米親露で凝り固まった人々と科学的な証拠に基づいて議論をしようにも、彼らには信仰に近いものがあって議論を深めることはほぼ不可能である。

 Twitterの普及により認識の溝は深まるばかりだが、友人を失うことだけはしたくない。

 23日、一水会顧問だった故鈴木邦男氏のお別れ会があった。筋金入りの親露派が顔を揃えた。彼らは田中がコテコテの親ウ反露であることを知っている。

 それでも顔を合わせると、お互い「オー」で始まり、最新の国際情勢について意見交換する。ウクライナに触れることも。だがまったく険悪にならない。

 顔を合わせる機会のない友人が、荒唐無稽なロシアのプロパガンダをツイッターで発信し続けている。国際情勢に詳しくウクライナ取材も経験しているジャーナリスト(田中ではない)が、上手に たしなめて くれる。

 田中は友人に二~三言DMを入れたが、あとはそっと見守っている。

 今は思い詰めまい。分断を喜ぶのは権力者だ。

  ~終わり~

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