鮫の脳みそと揶揄された森元首相に限らず「ゼレンスキー大統領はウクライナの人たちを苦しめている」と見る向きが多い。東条英機に喩える“論客”も少なくない。極端に偏った認識である。
田中は数えきれないほどの町や村を回り、数えきれないほどの人々にインタビューした。
ほぼ全員が「ロシア軍をウクライナの地から追い出すまで戦うべき」と答えた。
8ヵ月間もロシア軍に占領され恐ろしい思いをしたヘルソンでも、大量虐殺のあったブチャでも、住民たちは異口同音に「徹底抗戦」を訴えた。
地元メディアの世論調査では85%が「戦争継続」を支持した。
中途半端な状態。たとえばドネツク州・ルハンスク州を占領されたままで停戦合意しようものなら、ゼレンスキー大統領はたちまち国民の支持を失う。
ウクライナは言論・表現の自由がほぼ100%保障されている国だ。ゼレンスキー大統領の写真に「チンポコ野郎の独裁者」と書いたプラカードを持った市民が大統領府の真ん前までデモを掛ける(写真参照)。
ゼレンスキー大統領が領土を奪還しないまま和平合意を結ぼうものなら、マイダンの再現となるだろう。
親露傀儡のヤヌコビッチ政権を市民が倒したマイダン(2014年)は、同大統領が、国民の切望していたEU加盟を反故にしたことに端を発した。
インチキ知識人が唱えるクーデターなんぞではない。治安部隊は政権の側にいてデモ隊を射殺していたのだから。
駐ウクライナ米国大使館がデモ参加者に日当を配ったこともあるが、それは後半からだ。
デモは腐敗しきったヤヌコビッチ政権への怒りから自然発生したのである。
中途半端な形で和平合意しようものなら、ゼレンスキー大統領は元大統領の二の舞を演じることになるだろう。
ここを見誤ると、さらなる混乱が生じ、ウクライナの民はもっと苦しむことになる。
~終わり~