従軍取材と客観報道

ロシアが侵攻する前のマリウポリ。港湾施設は今どうなっているのだろうか?=1月 撮影:田中龍作=

 ロシア国営メディアに所属する日本人記者がロシア国防省主催のメディアツアーでマリウポリに入った。24日付の『デイリー新潮』に掲載され、ちょっとした物議を醸している。

 拝読した。言うまでもなくロシアの巧妙なプロパガンダである。

 「マリウポリ港は業務を再開している」とするサブタイトルで復興をアピールしていた。

 マスゲームこそ出なかったが、劇場では演劇の舞台稽古が行われていた。

 リハーサルを鑑賞していた市民たちのインタビューがふるっている。60代の女性は「私の服なかなかいいでしょ。最近ようやく、おしゃれして出かけようという気持ちになれたの(原文ママ)…」と答えている。北朝鮮を凌ぐ自画自賛だ。

 劇団員も市民もどこから来たのか一切明らかにされていない。

 言論の自由・報道の自由など保障されていない国のメディアツアーなのだから、追及に値しない。

爆撃が激しくなり取材陣は不安な表情に。=3月、イルピン 撮影:田中龍作=

 ロシアに実効支配されている東部地域を除くと、ウクライナでは言論の自由・報道の自由はほぼ100%保障されていた。

 ウクライナ軍に同行して取材することもあったが、報道内容について干渉されたことは一度たりとてなかった。ウクライナ軍やゼレンスキー大統領をクソミソにけなそうがOKだ(そんなことをする必要もないが)。

 ただし、「これは撮影するな」と言われたことはあった。銃弾を受け息絶えた米国人記者を乗せた担架を撮ろうとしたが、すぐ傍にいた軍の兵士から「ノーフォト」と言われたので、止むなく従った。

 同業者の遺体を撮ることは私とて本意ではなかったので、「ノーフォト」の指示が報道規制だとは今でも思っていない。

ウクライナ軍兵士は米国人記者の遺体を前に「ノーフォト」と言った。=3月、イルピン 撮影:田中龍作=

 報道カメラマン沢田教一がピューリッツァー賞(1966年度)を受賞した『安全への逃避』は、米軍の爆撃から逃れて川を渡る母と子たちの姿を活写した一枚だ。

 ベトナム戦争の悲惨さをリアルに伝え、ベトナム反戦運動の機運を盛り上げるのに大きく貢献した。

 沢田教一は米軍に従軍し戦場深くまで入って、カメラのシャッターを切りまくった。米軍にとって写されたくない場面が数えきれないほどある。

 米軍に従軍しながら米国のベトナム戦争を厳しく批判しているのだ。何万言を費やした記事よりもはるかに雄弁な写真で。

 言論の自由・報道の自由が保証されている国にあっては、従軍取材だからと言って、規制はない。政府に都合のよい報道をする必要もない。

 客観報道は可能なのである。

     ~終わり~

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