開戦から78日目、5月14日。
「外に出るとロシア兵に殺されるので家の中でじっとしていた」。「ロシア兵は遺体の埋葬を許さなかった」。虐殺があった街や村の住民は口々に語る。
それでも住民は窓越しから荒れ狂う凶行を見ていた。射殺された遺体が路上に散乱しているのも同様に見ていた。
ブチャの場合、住民に加えて神父も凶行の現場と路上に散乱した遺体を見ていた。マスグレイブを自らの手で掘ったアンドレイ神父である。
「遺体は犬に食いちぎられていた」「爆弾が仕掛けられていた」。神父は生々しく語ってくれた。
住民や神父が写真か動画を撮っていたら良かったのだが。不謹慎だが思う。少なくとも陰謀論が介在する余地は極端に減る。
「虐殺はウクライナ軍の仕業」「遺体はよそから持ってきた」はウソである・・・写真や動画という物的証拠を挙げながら言えるのだ。
ロシア軍占領下にジャーナリストが入るのは極めて困難だ。パスポートに敵対国のスタンプが押してあるジャーナリストが入れるわけがない。
イスラエルのスタンプがパスポートに押されていたら、アラブやペルシャの国々に入れないのと同じだ。
だがウクライナ軍が奪還すればジャーナリストが入れるようになる。
激戦地のイルピンでウクライナ軍から救出された住民たちは、安心しきっていた。「地獄に仏を見た」表情だった。
「ウクライナ軍が住民を人質にとって立て籠もっていた」は真っ赤なウソであることが分かる。
「ネオナチ説」「CIA説」を言い募る言論人たちに共通するのは、ネットが情報源であるということだ。人伝てであったとしても、手繰っていくと情報源はやはりネットであったりする。
直接住民から、直接当局者から、直接ウクライナ軍から聞いたわけではないのだ。
地獄絵のような惨禍が起きていて、日本人と同じ人間が苦しんでいる。
騙されて「ネオナチ説」「CIA説」を信じ込んでいる人々が気の毒でならない。
~終わり~
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