日本人ジャーナリストら2人を拘束しているイスラム国とパイプを持つ、イスラム法学者のハサン中田氏が、きょう、日本外国特派員協会(FCCJ)で記者会見した。
中田氏はイスラム世界を敵に回した安倍首相のセンスのなさを指摘し、手をこまねくばかりの日本政府に憤った。
氏は北大生のシリア渡航を手助けしようとした「私戦予備罪」の容疑で、警察から家宅捜索を受けている。このため弁護士が同席。FCCJでは異例の記者会見となった。
「被疑者の立場にあるので多くの人の前に出ることを控え、イスラム国との接触も避けていたが、今回は人命が懸かっている・・・」。中田氏は記者会見に臨んだ苦しい胸のうちを明かした。
「イスラエルと国交を持つのは中東アラブ・イスラム世界では偏った外交」「日本人2人が人質に取られていることを知りながら、イスラム国との戦いを(安倍首相が)口にしたのは不用意だった」。
闇雲に米国に追随する日本の外交と安倍首相の能力のなさが、今回の事件を呼び込んだ・・・中田氏は言外に語っているようだった。
中田氏は昨年8月に湯川遙菜さんを救出するため、トルコ経由でシリアに向かった。「裁判にかけるのでイスラム法がわかり、日本語とアラビア語が出来る人をお願いしたい」という要請がイスラム国のウマル・グラバー司令官からあったのだ。この人脈(パイプ)は今も生きている。
身代金の要求がYouTubeによって公のものとなっても「日本政府から派遣要請はない」と中田氏は話す。
日本人フリー記者が次のように質問した―
「日本政府はイスラム国との交渉のパイプを持っていない。にもかかわらず、パイプを持つ中田氏に要請してこないとしたら日本政府は人質を救出する気があるのだろうか?」
中田氏の答えには今回の事態が凝縮されていた―「(湯川さん解放交渉のため)外務省に知らせ協力を申し出たが、『自己責任だ、協力はいらない』と言われた。(政府に救出する意欲があるのか)きわめて怪しいと思っている」。
「イスラム世界で日本は同盟国でありながらアメリカとは違うと思われてきた。(しかし安倍首相が)イスラム国を名指しして『戦う』と言ったことで、十字軍と思われても仕方がない状態になった」-中田氏は無念の表情を浮かべながら語った。
記者団からは「最悪の事態」を想定した質問が相次いだ。
AP通信「政府は人命優先と言うが、人質解放には交渉以外にどんな方法があるか?」
中田氏「交渉が唯一の方法だ。空爆によって殺されてしまうのが最悪の事態だ」。
日本テレビ記者「ビデオに出た人質はほとんど殺されている。その可能性は?」
中田氏「72時間を過ぎて日本政府からの反応がなくて(人質が)殺されてしまうこともあるだろう」。
記者会見の最後、中田氏は日本語とアラビア語で呼びかけた。イスラムの考えを熟知するイスラム法学者であり、ムスリムでもある氏でしか語れない言葉だった。
「日本の政府に対して、イスラム国が考えている事を説明し、こちらから新たな提案をするから待ってほしい。72時間で人質に対して何かするのをやめてほしい。私も行く用意がある・・日本人を釈放することがイスラム国のイメージを良くする・・」。