「ロシアへの編入」か「(独立に近い)自治権の確立」か、を問うクリミア自治州の住民投票が16日(日本時間同日午後~17日未明)、行われた。
筆者はロシア系住民が約60%の州都シンフェロポル、90%のセバストポリ、そしてイスラム教徒のタタール人が90%のバフチサライを取材した。「平均的」「親ロシア」「反ロシア」各地域の選挙情勢をつかむためだ。
シンフェロポル中心部の住宅地に設けられた投票所には、朝から続々有権者が訪れた。地元の選挙管理委員によると地区の有権者2,030人のうち650人が午前11時までに投票した。開始からわずか3時間で投票率は32%だ。
年金生活者のラシーブ・ジャバドフさん(72歳)は「ロシアへの併合」を選んだ。理由を尋ねると「我々にはロシアの血が流れているからだ。それ以上に暮らしが良くなる。生活水準が4倍は上がるだろう」と答えた。
ラシーブさんが受け取る年金は、月に1万2,600円ほどだ。経済大国ロシアの一員になることでクリミアの経済も良くなると期待しているようだった。
州都シンフェロポルから車で1時間ほど南に走った山あいの町、バフチサライは人口の90%をタタール人が占める。彼らは先住民族であったにもかかわらず、第2次世界大戦中、スターリンによってウズベキスタンに強制移住させられた。
猜疑心のかたまりだったスターリンは、タタール人がナチスドイツに協力していると疑ったのだった。こうした歴史的経緯もあり、バフチサライはクリミア半島の中でもずば抜けて「反ロシア感情」の強い地域だ。
学校の体育館に設けられた投票所を訪ねた。閑散としていた。ガソリンスタンド店員のセイジャリ・レヌールさん(32歳)は投票に行かなかった―
「ロシアは国際紛争を引き起こす可能性があるからね」「タタール人のマジョリティーはスターリン時代のようなことが再び起きるのではないかと心配している」。セイジャリさんは顔をくもらせた。
ロシア系の住民が90%を占めるセバストポリのある投票所では出口調査が行われていた。出口調査といっても日本のようにマスコミが自社の都合で行っているのではない。
「Civil Opinion Center」という名の公的組織が統計を取っているのだった。投票を済ませた有権者のうち98%が「ロシアへの併合」を選んだそうだ。
投票所はプレスカードを見せれば投票風景を撮影でき、有権者にもインタビューできた。記者クラブメディア以外は投票所を取材できない、東アジアのどこかの国とは大違いだ。
戦略要衝であるセバストポリの検問所がいつにも増して厳しい、という情報が流れていた。実際、乗用車を一台一台止めてトランクの中までチェックする念の入れようだった。だが、ここもプレスカードを見せるだけで すんなり 通過できた。
開票、集計作業はこうだ。地区ごとに投票箱を開く→ 選挙管理委員会の職員が投票用紙を目で読んで分類、集計する→ 投票用紙一枚一枚にスタンプを押して封印する→ 州都の中央選管に送る→ 中央選管でもう一度集計する。
読み取り機で分類し、そのデータをコンピューターで集計する…ブラックボックスの中で選挙が行われている、どこかの国とはこれまた大違いだ。
ソ連崩壊の混乱期をのぞけば独裁政権が一世紀に渡って続くロシアに併合されれば、自由な投票もこれが最後となるのだろうか。