筆者は貧困問題の取材を通じて宇都宮健児さんの人柄に長く触れている。もう10年近いだろうか。2012年に「貧困ジャーナリズム賞」を受賞した際には宇都宮さんから表彰状を おし頂いた。
秘密保護法の成立後、顔を合わせた際「アンタもやられない(逮捕されない)ように気をつけてよ」と声を掛けられたことを思い出す。ワーキングプアなど弱者を救済するために、氏が尽力する姿を現場で幾度も見ている。
宇都宮陣営の選挙ボランティアによれば、救済された彼らは宇都宮さんについて語って歩いたという。選挙戦において口コミは強力だ。
労働者の4割が非正規、若者に至っては6割を占める。彼らの大半は年収200万円以下だ。非正規労働は大きな社会問題である。
宇都宮陣営はここにスポットを当てた。安倍政権の「世界一企業が活動しやすい国」に対して「世界一働きやすい、世界一暮らし易い」と強調した。
投票率が前回より10ポイント以上も下がったにもかかわらず、宇都宮候補は前回より得票を伸ばし次点につけた。ネット戦術が充実していたこともあるが、庶民の不満をすくい上げたことが大きい。
宇都宮陣営の街頭演説では共産党の地元議員や国会議員が“ 前座 ”を務めた。
「派遣法を改正(改悪)して多くの非正規労働者を創り出したのが小泉政権」「細川さんは佐川急便からカネをもらった人」…彼らは必ずと言ってよいほど「小泉・細川(中道保守)」を批判した。
そしてそれは効を奏した。都知事選に限っていえば中道保守は駆逐されたと言える。共産党が唱える「自共対決」は実現したと見ることもできる。
中道保守がめっきり弱くなったことの副産物は右翼の台頭だ。元空幕長の田母神俊夫候補は60万票を獲得した。支持層はネトウヨと呼ばれる人々や、自民党の舛添擁立に反発する人々だ。自民党右派の支持層と重なる。
独自の歴史認識で注目を浴びる元空幕長の善戦は、「右翼の台頭」で済ませることができない。
宇都宮陣営に関わっていた、ツイッター名 @keiki22 さんは次のように明かす―
「宇都宮ボランティアの少なくない数の人間が田母神さんの街宣を見に行ってる。実際にチラシも受け取って、向こうのボラの人の話も聞いて来てる。そして、どんな気持ちでボラに参加してるのかも様々な事を知ってる。彼らの中に、田母神さんと宇都宮さんで悩んでる人も少なくないと、そこで知った」。
社会の仕組みが酷過ぎて いわゆる「99%」が生きて行けなくなれば、「中道保守」など消し飛ぶ。右翼と左翼だけとなる。
バランスを失った時、社会は一気にどちらかに傾く。いかにも危うい。この国にあって先に火をつけそうなのは、マスコミと政府を握っている方だ。