【諏訪都リポート】ベクレルフリーのレストラン 「お客さんを放射能から守りたい」

鹿児島産たまごを使ったオムライス。キャベツの甘みが広がるクリームソースととろける卵のコンビネーションが絶妙だ。セットのスープは野菜の持ち味を十分引き出している。=撮影:諏訪都=

鹿児島産たまごを使ったオムライス。キャベツの甘みが広がるクリームソースととろける卵のコンビネーションが絶妙だ。セットのスープは野菜の持ち味を十分引き出している。=撮影:諏訪都=

 ツタに覆われた外観はまさに森への入り口だった。扉を開けると、丸みを持った内装にほっと癒される。木の幹をイメージしたというインテリアは、オーナー松尾修さん(49歳)の手作り。東京都福生市、在日アメリカ空軍横田基地前の「木を植えるレストラン・オーロラ」は、ベクレルフリーだ。

 メニューは、以下の通り―
・石垣牛100%ハンバーグ
・骨付き鶏もも肉のレモンクリーム煮(オーガニックライス付き)
・有機野菜のベジカレー
・鹿児島産たまごのオムライス・キャベツクリームソース
・九州産キノコのクリームドリア ・・・他多数
 いずれも有機野菜を使って丹念に作った料理だ。

 松尾さんはベクレルフリー・レストランを始めた動機を語った。

 「事故が起きてすぐ家族と一緒に山梨に避難したけど、自分たちだけ助かってもしょうがないと思い、1泊して帰ってきた。事故が起きた時に飲食店をやっていたことも何か意味があるのかなと思って…。お客さんを放射能から徹底的に守りたかった」。

 「最初は、(西日本に)産地限定して放射能対策をしていた。でも、対策をしているということを公開するのには、心の準備が必要だった。迷っているときに、食品安全基準を500ベクレルなどとした政府の対応に腹が立ち、公開に踏み切った」。

 2011年の夏「ベクレルフリー・レストラン」として再オープンした際には、待ってましたとばかりに遠方からもお客さんが来たという。

 産地限定で行っていた放射能対策も、測ってみないと分からない。経営コンサルタントの反対を押し切って180万円の放射能測定器※を購入した。同時に、地域の人にも測定器を使ってもらおうと市民放射能測定所も併設した。

放射能測定する松尾さん。測定は1検体1980円。「なるべく地域に役立てたい」西多摩の土壌汚染マップ作成にも活用している。=オーロラ店内 撮影:諏訪都=

放射能測定する松尾さん。測定は1検体1980円。「なるべく地域に役立てたい」西多摩の土壌汚染マップ作成にも活用している。=オーロラ店内 撮影:諏訪都=

 埼玉飯能市に住む女性(52歳・主婦)が計測に来ていた。
 「車で30分くらいのところに手頃な値段の測定所があり助かっている。たまに食べにくるが、近所にも放射能を気にしている飲食店があったらいいと思う。しかし近所では、神経質になっているのは私一人のようだ」。

 昔からチェルノブイリの子どもたちを保養で自宅に受け入れるなどしていた彼女は、放射能の危険性を肌で感じてきたのだ。事故直後、近所に“とろろ昆布”を配り歩いたと言う。ヨウ素を含むとろろ昆布は、甲状腺ガン対策に良いと言われている。

 事故から約2年経ち、食品の放射能基準値は「100ベクレルで大丈夫」が定着しつつある。「放射能」という言葉さえ言い辛い環境の中、勉強して必死に対策をしている人々は「放射能を気にし過ぎ」と言われかねない。

 ベクレルフリー・レストランは、そんな人々が気軽に放射能について話せる場所でもあるのだ。「自分の店がそうした場所になっていることをお客さんからの感謝の言葉で気づかされた」と松尾さんは言う。ベクレルフリーにして店の売り上げは伸びたそうだ。

「木を植えるレストラン」は、売り上げの一部をヒマラヤ山脈の村々の植樹活動にあてている。現在までに約2000本の植樹を行った。=撮影:諏訪都=

「木を植えるレストラン」は、売り上げの一部をヒマラヤ山脈の村々の植樹活動にあてている。現在までに約2000本の植樹を行った。=撮影:諏訪都=

 現在、ベクレルフリー・レストラン下北沢2号店の準備中だ。最終的には、福島でもベクレルフリーのレストランを開くことを視野に入れていると、松尾さんは思いを打ち明けた。

 「汚染が高い土地に住む子どもたちこそ、食べ物による内部被ばくをコントロールしなければいけない。1ベクレルまで測れる精密な測定器を使えば、汚染されていない福島の作物も分かる。店を放射能について周りを気にせず話せる場所、避難や保養の情報交換場所としても提供したい」。

 日本のベクレルフリー・レストランの先駆けであるオーロラの松尾さん。放射能と真剣に向き合う姿勢からは、飲食店オーナーとしての使命感が伝わってきた。

 ◇
※ガンマ線放射能測定モニター(ヨウ素、セシウム134・137の計測)

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