原子力規制委員会が策定した「原子力災害対策指針(案)」と「原発の新安全基準(案)」について広く意見を聞くパブコメがいま実施されている。だが、どれほどの国民が知っているだろうか。
新聞・テレビは規制委員会が両案を発表した際に大きく報じた。しかしパブコメについての記事にはお目にかかったことがない。
「避難区域が狭過ぎる」「ベントを前提とした原子炉」……両案とも問題点だらけだ。規制委員会はそれを国民に報せたくないのだろうか。
かりに報せたとしても国民の意見を聞くパブコメの募集期間が短い。「行政手続法第39条の3」は、「意見公募期間は30日以上でなければならない」と定めている。
昨夏、内閣府が将来のエネルギー割合(原発割合)を決めるパブコメを求めた際は約40日間に渡って募集した。全国各地で説明会を開いたりもした。
ところが「原子力災害対策指針(案)」は2週間(2月12日締め切り)、「原発の新安全基準(案)」は3週間(2月28日締め切り)なのだ。
危機感を抱いた「原子力規制を監視する市民の会」が9日、パブコメの書き方などをアドバイスする講習会を都内で開いた。約50人が出席した。
埼玉県越谷市の男性(60代・元エンジニア)は、規制委員会のHPにある「原子力災害対策指針」と「原発の新安全基準」の記述が分かりづらいため、理解の手がかりを得ようと参加した。技術屋が「分かりづらい」と嘆くのだ。
「役人はあえて分かりにくくしようとしているのではないか。前回(原発割合)、彼らにとって喜ばしくないコメントが多かったから、今回はパブコメの募集期間を短くしているんじゃないかな。官僚に騙されないように気をつけて(パブコメを)書きたい」。元エンジニアは政府への不信で一杯だった。
川崎市の会社員(男性・40代)は「パブコメの募集が告知されていない」と原子力規制庁に抗議の電話を入れた。規制庁は「地域(自治体)が防災指針を作らなければならないので、今回短くした」と答えたそうだ。
「国民の声を聞こうとしていない姿勢が良く分かった。若い人はネットで拾えるが、被災者や年寄りは情報を拾えない。マスコミに広告を出すべきだ」。男性は憤りを抑えきれないようすだった。
「福島事故の究明ができていないのにパブコメを求めること自体がおかしい」。練馬区の男性(50代・自営業者)はズバリ指摘した。
これに対して元原子炉格納容器の設計者で講師役の後藤政志氏は「彼ら(規制庁)が出したものにNOを言うのがよい。“これはおかしい”とぶつけるのは効果がある」と助言した。
パブコメは再稼働を急ぎたい電力業界の意向を汲んだ規制庁が、アリバイ作りに利用することもできる。抜け穴だらけでも「国民の意見を聞いた上で決めたのですよ」と言えるからだ。
原発事故は起きてからでは遅い。次に起きたらこの日本では暮らしてゆけなくなるだろう。真っ先に被害に遭う住民、国民の大半が知らないまま「安全対策」が決定されようとしている。
《文・田中龍作 / 諏訪都》