「生活保護受給世帯の消費支出は低所得者のそれより多い」。珍妙なる報告書を社会保障審議会(厚労大臣の諮問機関)の部会が18日、とりまとめた。
この報告書を受けて自民党が政権公約で謳う生活保護費の1割引き下げが現実味を帯びてきた。危機感を募らせた生活保護受給者や支援者が22日、厚労省を訪れ田村憲久大臣あてに「生活保護基準を引き下げないよう」求める要請書を提出した。
厚労省を訪れたのは「生活保護問題対策全国会議」の法律家、支援者、そして生活保護受給者の約20人。反貧困ネットワーク代表の宇都宮健児・前日弁連会長が、厚労省社会・援護局保護課の伊沢功次課長補佐に10万2,101筆の署名を添えて要請書を手渡した。
宇都宮弁護士は伊沢課長補佐に次のように訴えた―
「生活保護が増えているのは格差が広がっているからだ。この対策をしなくてはならないのに生活保護を減らすのは本末顚倒。最低賃金は生活保護基準を下回らないように改善されてきたが、保護基準が下がると最低賃金も下がり労働環境の悪化にもつながる…(後略)」。
貧困層の居住支援団体「もやい」の稲葉剛代表が続いた―「生活保護費を切り下げれば冷房、暖房を使えなくなることもある。この寒い冬、凍死者が出てからでは遅い。保護基準の引き下げは慎重に考えて頂きたい」。
視力を失い左足の膝から下が無い男性(都内在住・40代)は、行政の対応を厳しく追及した―
「福祉事務所の窓口で“あなた働けないんですか?”と言われて追い返された。憲法で保証された“健康で文化的な最低限度の生活”を厚労省自らが壊していいのでしょうか?」
受給者や支援者がひと通り発言すると、厚労省広報室がメディアに退出を促した。「はい、メディアの方はここまでです、出て行って下さい」と。
とんでもない事だ。筆者(田中)は聞き入れることができなかった。「厚労省の見解を報せる必要がある。何百万人もの生活保護受給者と(最低賃金に影響する)非正規労働者すべての問題なんですから」と突っぱねた。
伊沢課長補佐が重い口を開いた―「18日に検証結果が出たばかり。社会経済情勢を総合的に勘案して…」と役人答弁で対応した。伊沢課長補佐によれば、生活保護基準の引き下げは事務方の手を離れて与党の手中にあるということだ。伊沢課長補佐は「公明党がいるので(引き下げに)歯止めはかかるだろう」と楽観的な見通しを示した。
厚労省への要請が終わると、受給者の男性がつかつかと筆者(諏訪)に歩み寄って来た。東村山市に住む男性は精神疾患で働くことができない。「行政は現場を見ずに対応を決めている。本当に削減が必要と思うんだったら、一緒に生活してみるべきだ。そうすれば(削減が必要かどうか)分かるはずだ」。男性は体を震わせるようにして語った。
「生活保護世帯の方が低所得世帯よりもいい暮らしをしている」は、低所得者のうちでも、平均年収120万円と云うどん底の層を基準にして比較した結果である。暮らしてゆけない層と比べること自体が恣意的である。
あるケースワーカーは「厚労省は30年近くこの層との比較をやって来なかった(今回が初めて)」と指摘する。
社会保障審議会(厚労大臣の諮問機関)と自民党が示し合わせて都合のよい数字を弾き出したと見てよい。「先ず生活保護費削減ありき」だったのである。
《文・田中龍作 / 諏訪都》