東電福島原発事故では、脱出しようとする住民の車で道路が渋滞し、パニックとなった。大飯原発のある大島半島と本土をつなぐのは、わずか一本の細い道だ。筆者も通ったことがあるが、片側一車線(両側合わせて2車線)で海岸べりに張り付くようにして通っている。
大地震で路肩や山肌が崩れたら、住民は脱出が不可能となる。15日の対政府交渉で、環境団体は「複線化が完成してから再稼働を議論すべきではないのか?」と質問した。
原子力安全・保安院の中島義人氏は「インフラの整備は継続して行っていく」と官僚答弁した。「再稼働の前提ではないのか?」と問われると、中島氏は「前提ではない」と突き放した。
本土と大島半島の間に架かる青戸大橋(写真)は、間もなく築40年を迎え老朽化が進み、最新の耐震基準を満たしていない。耐震補強工事の予算が今年度つけられたが、工事完了まで3年間を要する。
大地震で原発事故が起き青戸大橋も崩れるようなことになれば、住民は大きく西に迂回しなければならない。脱出に手間取ることになる。地元からの出席者は「橋が崩れたら大島半島に住む人は孤立するんですよ」と悲痛な声をあげた。
保安院の中島氏は「橋の崩落は前提としていない。海からの避難訓練も検討している」。
その場逃れの答弁も甚だしい。耐震基準を満たしていないから補強工事の予算がついたのではないか。海からの脱出というが、海がシケていたらどうするのだ?
福島原発事故の教訓として忘れてはならないのが、政府がSPEEDIのデータを出し渋ったことである。何も知らされていない住民は、放射能が飛散する方向に逃げてしまった。飯舘村の悲劇が象徴的だ。
ところがSPEEDIの速やかな公開に疑問符がついたまま、大飯原発が再稼働されようとしていることが明らかになった。
文科省は「30キロ圏内にはSPEEDIの情報を提供する」と通知した。2月3日のことだ。30キロ圏内の地域を抱える滋賀県は心待ちにした。ところが待てど暮らせど文科省からSPEEDIに関する連絡は来ない。
4月7日、文科省に問い合わせたところ「準備中であるため、まだ滋賀県に提供していない」との答えだった。微かではあるが希望はまだ残っていた。ところが昨日(15日)になって「滋賀県は該当しない」と通告してきた。
社民党の福島瑞穂党首が問い詰めた。「規制庁ができて(SPEEDIの情報を提供する道府県を)拡大する(※)まではやらないということでしょ?」
文科省原子力安全課の岡村圭祐氏は「そうです」とあっさり認めた。岡村氏は開き直ったのか、「SPEEDIと再稼働は関係ない」とまで言い放った。
さんざん気を持たせておいて最後に捨てる。不実な男が純な女を弄ぶように。
滋賀県は近畿の水がめである琵琶湖を抱える。SPEEDIの情報が滋賀県に提供され始めるまで、大飯原発は再稼働させてはならない。関西住民のせめてもの願いだろう。
「避難道路の確保」といい、「SPEEDIの速やかな公開」といい、政府の対策には福島事故の教訓が何一つ生かされていないのである。大飯原発が再稼働され、もし事故が起きれば、再び多くの住民が被曝する。
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現在は19府県だが、規制庁発足後は24道府県に拡大される。
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