♪ 阿武隈川水清く とうとうと流る ♪
しんしんと冷え込む夜の霞が関。保安院の緊急記者会見を終えた筆者は「脱原発テント」に立ち寄ろうと歩きだした。すると聴き覚えのある切ないメロディーがテントの方角から流れてくる。歌声は近づくにつれ大きくなった。
よく聞くと「イムジン河」の替え歌だ。「脱原発」テントで座り込みを続ける男性たちが、ギターを奏で夜な夜な歌っているのである。
「イムジン河」は南北朝鮮分断の悲劇を歌ったフォークソングだ。昭和40年代にザ・フォーク・クルセダーズが歌ってヒットさせたものの、発売自粛となった。朝鮮半島を取り巻く複雑な政治事情にレコード会社が配慮したためだった。
北朝鮮を水源とするイムジン川は、軍事境界線を越えて韓国に流れ込む河川。川の水は誰に咎められることもなく南に流れて行く。水鳥は自由に南北を往来できる。分断された民族の果たせぬ思いを川の水に託した歌だ。
「脱原発テント」に泊り込みを続けるメンバーが、原発事故で避難した福島の人々に思いを馳せながら詩をつけた。除染後の水が流れ込み放射能汚染された阿武隈川に清流が戻るように、との願いを込めて。
イムジン河のサビのフレーズ、 ♪誰が祖国を二つに分けてしまったの♪ は、♪誰が故郷を散り散りにさせてしまったの♪ となり、聴く者の胸に迫る。
阿武隈川 水清く とうとうと流る
水鳥 自由に 群がり 飛び交うよ
ふるさと 福島よ
思いははるか
阿武隈川水清く
とうとうと流る
北の安達太良(山)から 未来の空へ
飛びゆく鳥よ 自由の使者よ
誰が故郷を散り散りにさせてしまったの
誰が福島を壊してしまったの
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