若者を食い物にする日本社会の闇

ハローワークの求人票でさえ企業の雇用実態と異なるケースがある。=都内、ハローワーク 撮影:取材班=

ハローワークの求人票でさえ企業の雇用実態と異なるケースがある。=都内、ハローワーク 撮影:取材班=

  文・辻井裕子 / 主婦

 先日、次女が転職した。以前の勤務先は、紛うことなきブラック企業だったからだ。

 朝早くから深夜遅くまで身を粉にして働き、土日祝日も出勤する日が多かった。しかし、正社員でありながら、残業手当も休日出勤手当も出なかった。
 
 常に、いつ倒れるか分からないような酷い顔色をしていた。新卒で入社して以来、約4年、よく頑張ったものだと思う。

 次女から、「ようやく転職できた」と聞いた時は、親として心の底からホッとした。
 
「今度の会社は、お給料も上がるし、お休みもちゃんともらえて、残業手当もつくんだよ」
次女はいつになく明るい笑顔で、正式に正社員として勤務する日を楽しみにしていた。

 ところが、いざ雇用契約書に署名する段になって、その転職先の会社の採用担当者から、次のようなとんでもないことを言われたという。

 「夏季休暇は無し、年末年始休暇は2日だけ。ということで、ヨロシクね」
 
 驚いた次女は「求人票の雇用条件では、『夏季休暇5日、年末年始休暇10日間』と書かれていました。そのつもりで応募したので、急にそんなことを言われても困ります」と言って、唐突に突きつけられたその条件を保留にし、雇用契約書を持ち帰った。

 共同通信のアンケート結果によると、“学生らから「給与が大幅に違った」といった、求人と実際の労働条件との食い違いに関する相談が、全国の国立大学86校のうち11校で寄せられていた・・・”とあった。

 こうしたやり口は、「求人詐欺」「おとり求人」などと呼ばれている。

 それだけでなく、最近では不景気の影響から、当初の雇用条件を年々変更し、勤務時間の超過や厚生年金基金の脱会など、徐々にブラックに変貌していく企業も増加しているらしい。

 そうした「求人詐欺」「おとり求人」を取り締まる法としては、職業安定法65条がある。

深夜まで働かせられるビジネスマン。重い足取りで帰宅を急ぐ。=都内、JR改札口 撮影:取材班=

深夜まで働かせられるビジネスマン。重い足取りで帰宅を急ぐ。=都内、JR改札口 撮影:取材班=

 ところが、この65条に対し、厚生労働省は次のような見解を述べている。

 「求人誌やハローワークに掲載されている求人票は、あくまでも募集の際に提示する労働条件の目安にすぎません。

 したがって、(求人票の内容は)労働基準法第15条で定める“労働条件の明示”には該当せず、取り締まりの対象とはなりません。

 なお、ハローワークの求人票の条件と、実際の労働条件が異なる場合は、ハローワークに問い合わせてください」

 つまり、この65条について、厚生労働省(とその出先機関の労働基準監督署)は、実質的にほとんど取り締まりを行なっておらず、監督責任を放棄しているのだ。
 
 実際に、この法律が適用された前例はない。
 
 また、今年3月1日より若者雇用促進法に基づく二つの施策が施行された。
 
 これにより、事業主は、新卒などの求職者に対し職場情報を提供することが義務付けられた。

 しかし、新卒求人だけに限らず若い世代がハローワークを利用する率は低く、民間求人組織を利用するケースが圧倒的に多い。
 
 そのため、実質的には、企業が自社情報について嘘を回答したり違反したりしても、罰則はないに等しい。それどころか、問い合わせをした学生が企業に敬遠される恐れがあるなど、この施策の効果を疑問視する声も多い。

 つまり、実態としては、労働者の泣き寝入りは減ることがなく、企業のやりたい放題が続く。「雇い主天国」状態は果てることがなさそうだ。

  ~終わり~

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