開戦のホラ貝が鳴ったと思ったら、いきなり本丸に攻め込まれた。日本がTPP交渉に正式参加を決めたと同時にそれは起きた。「日本郵政とアフラックが共同でガン保険を開発する」というのだ。日経新聞(25日付)は一面トップでデカデカと扱っている。
日経新聞によれば、日本郵政は2008年から1,000か所の郵便局でアフラックのガン保険を取り扱ってきたが、今秋から全国2万か所の郵便局でアフラックの商品を販売する。
恐るべきは「共同開発」だ。共同開発したことにより、日本郵政は独自の「医療保険」の開発を凍結する。米国政府の要求に沿って、だ。
ここがミソである。TPPで混合診療が本格化されれば、従来の健康保険では対応できなくなる。否が応にも民間の医療保険に頼ることになる。だが2つ足せば日本最大の金融機関となる「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」は、独自の医療保険を販売できない。
何故こんな屈辱的なことになったのか? 外交とくに第3分野をめぐる日米交渉に詳しい霞が関筋が明かす―
1980年代、日米自動車摩擦で自動車輸出と引き換えに大蔵省(現・財務省)が差し出したのが第3分野と呼ばれる特殊医療保険だった。そこで本格参入してきたのがアフラックだったのである。
全米保険協会会長で共和党のキィーティング議員が急先鋒となり郵政の資産開放を迫った。
小泉政権時の郵政選挙(2005年)は、300兆とも400兆ともいわれる「ゆうちょ」「かんぽ」の資産を米金融資本に差し出すためのものだった。郵政を民営化すれば外交から社会福祉までが改善されるかのような宣伝が繰り広げられた。TPPの前段である。
日本国民は見事に騙され、自民党は圧勝した。「小泉・竹中」による郵政民営化が国民の御墨付きを得たのである。
――以上、第3分野をめぐる日米交渉に詳しい霞が関筋の話
医師会幹部は「国民皆保険は両方からやられる」と危機感を募らせる。両方とは混合診療の本格化と労働法制の緩和だ。
上述したが混合診療が本格化すれば、従来の公的保険では対応できない。国民健康保険料を払えない非正規労働者が増加すれば、国保財政はさらに痛む。外国人労働者を大量に受け入れれば失業者は増える。彼らは保険料を払えない。こちらも国保財政を破綻に導く。
国民皆保険制度を法改正してまでいじる必要はない。健康保険財政が自壊する。
国民皆保険制度が消滅すれば、アメリカと同じようになる。一昨年、アメリカで99%の人々が「もう生活できない」と抗議して公園などをOccupyした。ニューヨークのズコッティ公園には「10年以上も病院にかかっていない」という人がザラにいた。
TPPに加盟すれば、混合診療、外国人労働者受け入れが本格化する。歩調を合わせて国内の労働法制も緩和される。
99%の人々が病院にかかれない米国と同じ風景が、遠からず現出するのだろうか。