たった一人のオッチャンが政府をも支配下に置く巨大企業相手に闘いを始めた。北海道北広島市で小売業を営む前川宗廣さん(62歳)が東京電力を相手取り原子力発電所の運転差し止めを求める訴訟を起こしたのである。27日、東京地裁で第一回口頭弁論が行われた。
差し止め請求の対象となっているのは東電・福島第1原発と第2原発。前川さんは訴状で次のように訴えている―
3月11日、東北地方を襲った大地震と津波により東電福島第1原発で高濃度・放射性物質の流出を伴う原子力事故が発生し、大気、海水、地下水を放射能汚染した。日本の食品、水道水をも汚染したのである。東京電力は最悪の事態を考えずに原発の運転を始めた。運転を再開すれば(再び)重大事故が発生する恐れがある。
こうした理由で前川さんは事故には至っていない第1原発の5・6号機と第2原発を運転差し止めの対象としたのである。(第1原発の1~4号機の運転再開は物理的に無理)
【事故後、容認派から反対派へ】
前川さんは法廷で間違えて被告席に座るほどだった。法律や環境問題には全くの素人が訴訟を起こしたのである。
請求の原因(訴訟を起こした理由)は、すでに政府や東電が発表したデータをベースにしている。そして日本の食品や水道水が放射能汚染されたとしているのだ。国民の多くが原発事故による被害や苦痛を受けている。日本の誰しもが東電に福島原発の運転差し止めを求めることができるという論理構成だ。
第1回目の口頭弁論で前川さんは意見陳述をした。「事故発生前まで私は原発容認派でした。ところが事故発生後、情報は二転三転し避難指示は後手に回った。福島の人々の恐怖、不安、絶望を思うとこの先どうして生きてゆくのか。日本国民として等しく苦痛を覚える …(中略)…東京電力には情報の開示を求める」。
口頭弁論の後、記者会見した前川さんは次のように語った―
「裁判を続けてゆけば東電の悪いところが出てくる。国民の間に広がりも出てくる。裁判を続けることが大事」。
東電側の代理人(弁護士)は「北海道に住む前川氏は原告適格を欠く」と回答してきた、という。だが東京地裁は前川さんの訴えを受理した。国民の誰もが原発の運転差し止め訴訟を起こせる道が開かれたのである。