飯舘村 御用学者に振り回されたあげくに

飯舘村曲田地区は浪江町との境。土壌からチェルノブイリ事故の強制移住基準を超えるセシウムが検出された。 空気線量も高い値を記録し続けている。(25日、 写真:筆者撮影)

飯舘村曲田地区は浪江町との境。土壌からチェルノブイリ事故の強制移住基準を超えるセシウムが検出された。 空気線量も高い値を記録し続けている。(25日、 写真:筆者撮影)

 東電福島第一原発から北西に離れた飯舘村は、村の最南端がかろうじて原発から30キロ圏内にかかる。車で走れば60キロもある。福島県内でも指折り標高の高い山あいの村だ。

 3月12日の1号機爆発を皮切りに3号機、2号機が爆発すると、飯舘村には周辺の市町村から次々と避難民が押し寄せた。山影で放射能から身を守れると思ったのだろう。避難民は最盛期には1,500人から2,000人にのぼり、学校の体育館などに宿泊した。

 爆発から10日余りが経った3月25日、福島県放射線リスクアドバイザーの高村昇・長崎大学院教授が村を訪れ講演した。高村教授は「ミスター100mSv」の異名をとる山下俊一教授門下である。

 村人300人が集まり耳を傾けた。村民が「これからも安心して村で暮らしていけるのか?」と質問したのに対して高村教授は「医学的には注意事項を守れば健康に害なく村で生活していけます」と答えている。(飯舘村広報紙・3月30日発行より)

 だが文科省や福島県が村に設置したモニタリングはいずれも高い数値を示していた。3月28・29日には京大原子炉実験所の今中哲二助教らが飯舘村に入り、130地点で測定調査を行った。

女性は「不安だあ、眠れねえ」と言った。(25日、飯舘村長泥地区で。写真:筆者撮影)

女性は「不安だあ、眠れねえ」と言った。(25日、飯舘村長泥地区で。写真:筆者撮影)

【高い線量が検出され推進派は抑えにかかった…】

 調査の結果、南端地域の曲田の土壌からチェルノブイリ原発事故の強制移住基準を超える線量のセシウムが検出された。文科省の同時期の調査でも雑草などから高いレベルのセシウムが出ている。

 これを受けてマスコミは『飯舘村、チェルノブイリ並みの放射能汚染』と報道した。村民の間に動揺が広がる。

 原発推進派は抑えにかかった。4月1日、切り札である山下俊一・御大を送り込んだのである。山下センセイは村議会議員と村職員を対象にセミナーを開き“放射能の安全性”を説いた―

 「(飯舘村で)今、20歳以上の人のガンのリスクはゼロです。この会場にいる人達がガンになった場合は、今回の原発事故に原因があるのではなく、日頃の不摂生だと思って下さい」、「妊婦は安全な所へ避難された方が精神的なケアを含めて考えると望ましいと思う。ここで頑張ろうという人がいてもそれはそれでいいと思う」

 ―山下センセイは身の毛もよだつ “放射能安全神話” を滔々と述べたのであった。

 セミナーに出席した議員の妻は「おとうちゃん、山下先生の話を聞いた時はすっかり安心して帰ってきたもんねえ」と当時を振り返る。

 村のオピニオンリーダーにあたる村議会議員や村職員が「放射能は安全」と頭に刷り込まれてしまったのである。村民への影響は少なくなかった。

 結果、多くの村民は自主的な避難もせず外出もした。線量が高かった初期の頃も積算すれば年間「100mSvを超す」地点が幾つかあるにもかかわらず、である。山下センセイは御自ら「ガンのリスクがあがるのは100mSvから」とこのセミナーで発言しており、自説と矛盾することになる。

 原発推進派の攻勢は続いた。9日後の4月10日には、御用学者の一人に目される杉浦紳之・近畿大学教授を派遣した。杉浦教授も前者と同じように「(放射能は)恐くない」と説いたのである。

 だが翌11日、飯舘村に衝撃が走る。政府が村の全域を「計画的避難地域」に指定したのである。

 つい前日まで福島県の放射線リスクアドバイザーらが「安全です」と高らかに“宣言”していたのは何だったのだろうか。

 村の男性(農業・40代)は「あの時、御用学者の言うことを信じてしまったことが悔やまれてしょうがない」と肩を震わせた。

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