「原発さえなければ」 自殺した酪農家の妻子が東電を提訴

「原発(事故)がなければ、お父さんはまだ生きている」。涙を流しながら話す菅野バネッサさん。=30日午後、司法記者クラブ(東京地裁内) 写真:田中龍作=

「原発(事故)がなければ、お父さんはまだ生きている」。涙を流しながら話す菅野バネッサさん。=30日午後、司法記者クラブ(東京地裁内) 写真:田中龍作=

 福島原発事故を苦に自殺した酪農家の妻と子が東電を相手どり総額1億2,600万円の損害賠償を求める訴えをきょう、東京地裁に起こした。

 訴えたのは自殺した酪農家、菅野重清さん(相馬市・享年54歳)の妻バネッサさん(フィリピン出身・35歳)と長男の健太朗君(8歳)、次男の純平君(7歳)。バネッサさんは提訴後、弁護士と共に司法記者クラブで記者会見した。

 重清さんとバネッサさんは2000年に国際結婚し、二人の男の子を授かった。菅野牧場の名前で約40頭の乳牛を飼育していたが、2011年3月、東電福島原発の事故により、生乳は出荷停止となり、牧草も汚染された。

 子どもの健康を気遣ったバネッサさんは4月、2人の子どもを連れてフィリピンに帰国する。重清さんも妻子の後を追ってフィリピンに渡るが、翌月帰国。うつ状態となる。

 重清さんは、原発事故から3ヵ月後の6月10日、堆肥小屋の壁に「原発さえなければ」と書き遺した後、首を吊って自殺した。重清さんの年収は590万円だった。

 原告代理人の保田行雄弁護士は「原発事故と自殺の因果関係が争点になる」と話す。バネッサさん側は東電と示談交渉を進めてきたが、東電は「因果関係を客観的に示す証拠を出せ」と言って受け付けてくれなかった、という。

 「裁判をした方が早いと判断し、提訴することになった」。弁護士は提訴に至った理由を明らかにした。

重清さんが堆肥小屋の壁に書き遺した「原発さえなければ」。パネルを持っているのは原告代理人の弁護士。=写真:田中龍作=

重清さんが堆肥小屋の壁に書き遺した「原発さえなければ」。パネルを持っているのは原告代理人の弁護士。=写真:田中龍作=

 バネッサさんは2人の子どもと共に伊達市に住む。仕事もなく、重清さんの保険金を取り崩しながらの暮らしが続く。

 記者団が「東電への思いは?」と質問した。

 「助けてほしいだけ。(伊達市は線量が高いこともあり)子どもと私の体調が交互に悪くなる。東電はきちっと補償してほしい」。バネッサさんは目を赤くはらしながら答えた。

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