「上に政策あれば下に対策あり」とはこの事だ。毎週金曜夕、官邸前で開かれる原発再稼働への抗議集会は、野田政権を悩ます。二度までも規制線を破られ官邸を脅かされたことは、警察にとっても痛恨の事態だった。
歩道と車道を鉄柵で区切り、歩道の中をさらにポールで仕切った。地下鉄に出口規制をかけ、参加者をなるべく官邸に近づけないようにした。
だが、いくら規制しても権力中枢に向かって「再稼働反対」と叫びたい人々の気持ちまでは規制できない。人々は国会議事堂、経産省、環境省へと流れて行った。皮肉なことに抗議行動は面として広がったのである。
先週あたりからは官邸『裏』でシュプレヒコールがあがるようになった。場所は東京メトロ「溜池山王駅」の出口付近。石を投げれば官邸に届くほどの至近距離だ。高層ビルの公開緑地に40~50人が集まる。
千葉県在住のパート主婦(30代)は「官邸前に近づけないので、経産省前で声をあげていた。今回、初めて官邸裏に来た」と経緯を話した。
「官邸前より広い」「野田政権に声が届きやすい」などと参加者には評判がよい。官邸前はひとり当たりのスピーチ時間が2~3分と決まっているが、官邸『裏』は『無制限一本勝負』だ。
熊本県出身の女性(30代・千葉県在住)が北九州市の「がれき焼却問題」について10分間ほど演説した。「九州で獲れた新鮮で安全な野菜を友達が送ってくれていた。だが、九州でがれきが燃やされると送れなくなる、と友達が嘆いていた…」、トラメガを持つ女性は声を震わせながらアピールした。
この夜、怒りのボルテージが最も高かったのは、原子力規制委員会を所管する環境省の前だった。原子力ムラ生え抜きの田中俊一氏を委員長とする人事は、早ければ来週にも採決が行われる見通しだ。
だが、採決しようものなら自治労など脱原発を掲げてきた労組の民主党離れが加速する。民主党内の再稼働反対勢力が離党する恐れもある。原発推進の野田政権も足元が崩れては、すべてを失う。様子見が続きそうだ。
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