大畑さんが不払い運動を始めたきっかけは、福島県双葉町から避難した住民の悲痛な訴えだった。「私は東電が起こした事故のために、東京に避難している。帰りたくても帰れない。それなのに、東電から電気代の請求書が届いた。絶対に払いたくない」
大畑さんは「電気代不払い運動」を知ってはいたが、まだ実行に移していなかった。だが避難住民の話を聞いて気持ちに火がついた。すぐに実行した。
不払い効果のほどを聞いた―
「会社にとって一番重要なことは、代金を回収すること。口座自動振替にしてると、こちらがどんなに苦情を言っても、代金を確実に回収でき、東電にとっては相手にする必要がない。振込にすることによって、多少なりとも回収を不安定にさせ、これまでのように従順で素直な消費者ではない、ということを示すことができる。回収経費もかかるだろうし、一人ふたりでは無視できるかもしれないが、多くの人が振込に変えることによって、東電は無視できなくなる」
事実、東電の利益の9割は一般家庭で支払われる電気料金(※2)で、最近値上げをした企業の電気料金からの利益は1割にも満たない。つまり、東電の利益の9割を支えている一般市民が不払いをしたら東電はお手上げになるのである。
市民による不払い運動には、長い歴史があり様々な成功例がある。電気代の不払いに限っても1920年代からあり、値下げに成功した例もある。また1970年代には企業の政治献金に反対ということで、故・市川房枝さん(当時参議院議員)が東電に対して電気料金1円不払い運動を展開し、献金を中止させた例などもある。
大畑さんは当初「3分の2払い」にしてたが現在1円不払いにしているが、それは市川さんのリーダーシップに敬意を表してだ。最近ではNHKの不祥事に端を発した受信料不払い運動がある。NHKは経営体制を変えざるをえなかった。
「郵便振込を使い、初めて自分で決めた金額で電気代を払った時、強大な企業と自分が対等になり、主導権を握ったような気持ちになった。今後、家庭向け電気料金(規制部門)の値上げを検討している。東電は原発を止めて火力の燃料代がかかっているからと言うが、そうではないことは報道を見れば明らかだ」。
「原発に対して意見が分かれているとしても、この値上げに対して、自治体や企業体からも不払いするとの表明が次々と出されている。納得できないものに対しては誰でも払いたくないのです。デモに多くの人が参加してきているが、この不払い運動にも多くの市民が参加し国民運動となることを願っている」。最後まで強いまなざしで語る大畑さんだった。
不払いの詳しい内容・東電とのやり取りの話などは「なくそう原発、不払いしよう電気代!」http://d.hatena.ne.jp/toudenfubarai/まで。
《文・諏訪 京》
(※2)
2011年10月3日、東京電力に関する経営・財務調査委員会報告
◇
『田中龍作ジャーナル』は読者のご支援により、持ちこたえております。