「電気に反対なのではなく、原発(の電気)に反対なんです。最初は原発の電気分だけ払うまいと思っていたが、東京電力の不誠実な事故・賠償対応を見ていると、電気代そのものを払う気になれません」。こう語るのは埼玉県在住の大畑豊さん(NPO理事・48歳)だ。
昨年10月から東電の電気代滞納・不払い運動を始め、「1万人達成」を目指してネットやチラシを撒いている。実生活でも、電気使用量を最小限に抑えるため、契約アンペアを10アンペアまで下げた。炊飯器、テレビは使わず、冬場は冷蔵庫無しの生活だ。お米はガスの圧力鍋で炊いている。
大畑さんが実践する不払い・滞納の手順は次のようなものだ――
①「口座振替」をやめ「振込用紙払い」にする。
電気の領収書に書いてある番号に電話すれば、すぐに変更できる。
(約52円の「口座振替割引」が無くなるが、ここは思い切って契約アンペアを下げて基本料金を下げる)
②支払用紙が届いたら郵便局ATMに行き、「金額の確認」の画面で「訂正」ボタンを押し、自分で決めた金額を払う。現在原発は止まっているが東電は電気の3分の1は原発との体制を維持しようとしているので3分の2だけ払うとか。大畑さんは請求額より1円少ない額を振り込んだ。その際、支払い用紙の上の余白に「げんぱつはハイロに!」とメッセージを添えた。(※1)
③残金の請求書がくるので、電気が切られる前に支払う。あるいは、集金に来る社員と交渉をして支払いを先送りする。
実際に「1円少ない金額」を振込むところを見せてくれると言うことで、大畑さんに同行して郵便局のATMに向かった。東電から届いた請求書には「原発を廃炉に!」とメッセージを書き込んだ。
大畑さんは慣れた手つきで、請求額から1円少ない金額を画面上のキーボードで打ち込み、支払いをすませた。「郵便振り込みで、金額が訂正できることを発見した時は、ついに原発分の料金を不払いできるぞ、と思った」。大畑さんは子供のように無邪気に笑った。
「こうすれば、電力会社の会計に売掛金(未収金)を増やし、催促コストをかけさせることになる。直接意見を言う事で、原発反対の強い意志を伝える事もできる。面と向かって文句を言わなくても出来ることなので、デモへの参加が難しい人でも、こっそりと出来る。利点は多い」。
国家権力をも支配下に置く東電を困らせる方法は、意外と身近な所にあった。しかも誰にでもできる。運動家の大畑さんならではの知略と言えそうだ。 ~つづく~
《文・諏訪 京》
(※1)1日あたり約0.03%の延滞利息がつく。5千円を一ヶ月滞納した場合、40円程度。
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