今日28日は世間で言う御用納めだ。だが原発事故で子供たちを被曝させられた福島の母親たちの怒りは、年が終わるからと言って収まりがつくわけではない。「廃炉や避難の補償」などを求めて東京電力本店(内幸町)に交渉を求めたが、東電側は玄関先で対応するに留まった。
朝6時福島市を貸切バスで出発した「原発いらない 福島の女たち」は、正午前、東京に到着。事前了承(アポ)を得ての訪問だったため、取締役レベルとの交渉に臨む構えだった。
だが、建物の中にも入れてもらえず、対応したのは原子力損害センターのヒラ社員だった。東電は当初、女性たちが正門の内側に入ることも拒否した。門前払いである。「入れろ」「だめ」の押し問答がしばらく続いた。
だが、「アポも取っているのにどうして話を聞いてもらえないんですか」。女性たちの懸命の訴えの前に、東電は2人一組に限って正門の内側に入ることを認めた。一組ずつ正門の内側に入って、東電原子力損害センターのヒラ社員の前で要請文を読み上げていった。10数組すべてが入り終えるのには、1時間半近くを必要とした。
郡山市から駆け付けた蛇石郁子さんは「子供たちへ心からの謝罪と脱原発を求める要望」と題して次のように訴えた―「外で遊ぶこともできず、夏でも長袖とマスクを着用しなければならない。草花にも触れない…(中略)…普通の生活を返して下さい」。
福島市の佐々木慶子さんの言葉が東電の非情な対応をよく指摘していた―「福島の女たちはこのままでは年を越せない。私たちは過激派でも暴力団でもない。静かな所で迎えて頂きたかった。寒空の下、お部屋で迎えて頂きたかった」。
これに対して東電原子力損害センターのアイダ氏は「特別警備態勢のなか会社としての判断」とかわした。
電力政策に影響力のある自民党議員や民主党議員の仲介を得た農協、漁協などは本館の応接室に招き入れられ、取締役が対応する。あまりに対照的だ。
車道を挟んだ反対側の歩道上では首都圏から足を運んだ女性たちが声援を送った。俳優の山本太郎さんも仕事の合間を縫って応援に駆け付けた。
山本さんは庶民を見下ろすような東電の巨大ビルに向かって叫んだ―「せめて自主避難者に補償だけでもして下さい。あなた達がバラ撒いた放射能なのに、住民が除染しなければならないのですか?私たちはあきらめませんよ。あきらめて喜ぶのは東電と国家だけですから」。
埼玉県在住の女性は、子供(6歳、8歳)の手を引いて東電まで抗議の声を挙げに来た。「10年後、20年後の子供の健康が一番心配。子供が大きくなった時に『どうしてお母さん、何もしてくれなかったの?』と言われて謝るだけの親になりたくない」。
埼玉県の女性は母親として、山本太郎さんは一庶民として、ごく当たり前のことを話しているに過ぎない。世間の常識が通用しない東京電力は、政府を巻き込んでウヤムヤ解決で幕引きを図るつもりだ。「これでは年が越せない」。福島の母親たちの呻き声が、除夜の鐘の音を掻き消す。