2011年の夏から秋にかけてウォール街一角のズコッティ公園を庶民が占拠(Occupy)する事件があった。
庶民とは、ほんの一握りの富裕層に生活費さえも収奪された99%の人々である。
米国では国民皆保険制度がなく(当時)、民間の保険はベラボウに高い。ズコッティ公園には10年間病院にかかったことがない人々がいて、ボランティアの看護師のケアを受けていた。10年間も病院にかかっていないケースはアメリカでは珍しくないとのことだった(当時)。
Student loan(奨学金)に苦しむ元学生たちの姿もあった。公園では毎日、ボランティア団体の炊き出しがあり、長蛇の列ができた。
NY市警が公園横にパトカーをズラリと並べて警戒していた。占拠者の排除が目的だった。田中も張り付くようにして取材を続けた。
ある日のことだった。ザクッ・ザクッ・ザクッ…軍靴を踏みしめる音と共に兵隊たちの隊列が現れた。ネイビーも、海兵隊も、アーミーもいる。米軍帰還兵たちだった。
帰還兵たちは「我々も99%だ」と言って公園占拠に加わったのである。
イラクに2度従軍したジョンソン・コーナーさんは次のようにアピールした。「長い間我々の声はとても低く抑圧され、ウォール街の声に無視されてきた。銀行と大企業、そして政府とホワイトハウスに我々の実情を聞かせたい」。
彼らが経済的徴兵制で戦争に行かざるを得なかったのは明らかだった。
日本の学生は返還不可能なほどの多額の奨学金を背負わされている。数百万円はザラで中には1千万円を超える学生もいる。平均で310万円(労働者福祉中央協議会調べ=2022年9月)という高額な借金である。
奨学金を貸付ける日本学生支援機構の運営評議会委員にして経済同友会・前副代表幹事の前原金一氏が恐るべき発言をしていた―
「返還の滞納者が誰なのか教えてほしい…(中略)防衛省などに頼み1年とか2年とかインターンシップをやってもらえば就職は良くなる。防衛省は考えてもいいと言っている」と。(文科省議事録より=学生への経済的支援の在り方に関する検討会」2014年5月で)
借金を返せなくなった貧乏人を軍隊に送り込むのが経済的徴兵制だ。よりによって日本学生支援機構の運営評議会委員が経済的徴兵制の実現を促したのである。
自民党は「緊急事態条項の創設と自衛隊(を軍隊として)の明記」を喫緊の課題として憲法改正を急ぐ。
あとは十分な数の兵隊を確保するだけだ。それには借金漬けにした元学生を充てればよい。
経済的徴兵制を敷ける環境はすでに整っている。
~終わり~
◇
田中龍作ジャーナルは、他メディアが報道しない世界の冷厳な事実を伝えます。
取材費が圧倒的に不足しております。ご支援何とぞ御願い申し上げるしだいです。