【ナゴルノ・カラバフ】力の空白が軍事侵攻を招いた 「看護師の母は塹壕の野戦病院に」

装備で圧倒的にアゼルバイジャン軍に劣るアルメニア軍。ロシア軍による平和維持活動によりかろうじて均衡が保たれていたが…=2020年、ナゴルノ・カラバフ 撮影:田中龍作=

 国際情勢は玉突きで動く。懸念が現実になった。

 ナゴルノ・カラバフ地方に19日、アゼルバイジャン軍が軍事侵攻した。

 アゼルバイジャン国防省が発表し、BBCや地元メディアが確認した。

 ナゴルノ・カラバフ地方をめぐってはアゼルバイジャンとアルメニアの双方が領有を主張し、幾度となく軍事衝突が繰り返されてきた。

 2020年秋の衝突を受けロシア軍が平和維持軍として同地方に進駐してきた。だがウクライナ戦線で苦戦するロシア軍を尻目にアゼルバイジャン軍はナゴルノ・カラバフを封鎖してしまったのである。

 軍事封鎖する直前、アゼルバイジャン軍はアルメニア本土に砲撃を加えた。だが軍事同盟を結んでいるロシアは反撃できなかった。

 ウクライナでのロシア軍の苦戦は、この地域の安全保障を不安定化させていたのである。

田中と共に現地取材をするアルメニア人ジャーナリスト。=2022年、ナゴルノ・カラバフ 写真:本人提供=

 ナゴルノ・カラバフでは戦闘が起きるたびに双方の虐殺が繰り広げられてきた。両民族の憎しみは深い。

 今回は軍事力で圧倒的に優勢なアゼルバイジャン軍が侵攻した。アルメニア人の生命が危機的な状況に置かれることになる。

 「ロシアがウクライナで負けたら虐殺が起きる」。友人のアルメニア人ジャーナリスト(写真)は、今にも泣き出しそうな顔で心配していた。

 たった今、友人からDMがあった。「看護師の母親は塹壕に設けられた野戦病院で負傷者の治療にあたっている」と。

 国際情勢は反米親露の陰謀論で動いているのではないことが、皮肉にも実証された。

 ~終わり~

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