ヨルダン渓谷まで足を延ばした。フェンスの外側にあたるパレスチナの領土を農業用水がサラサラと流れていた。
水路の川幅は1メートル足らず。水量はお世辞にも豊かとは言えない。それでも土漠と砂漠に強烈な日差しが照り付ける中東にあって水はこのうえなく貴重な天然資源である。
映画『アラビアのロレンス』で他民族の井戸の水を飲んだ男が撃ち殺される場面があるが、水は命なのだ。
話を農業用水に戻そう。用水路はオスマントルコの時代に建設された。水源は渓谷の山である。
水をコントロールしているのは、イスラエルだ。パレスチナ農家も使うことが可能だが、あくまでもイスラエル本位である。
冬場はご覧のように水は滔々と流れているが、夏はほとんど流れなくなる。イスラエルが上流で水を止めるからだ。
車を走らせていると、白茶けた土漠に突如として緑の森が出現する。イスラエルのナツメ椰子畑である。農業用水をふんだんに使える御蔭だ。木一本で年収100万円にもなるという。
第3次中東戦争(1967年)勃発の遠因にヨルダン川の水利用の問題があった。イスラエルが水を独占しようとしているのではないか、とヨルダン川沿いのシリア、ヨルダンが疑念を募らせ反発したのである。
だが第3中東戦争はイスラエルが圧勝。ヨルダン川西岸を軍事占領した。パレスチナ住民はヨルダン川にアクセスできないようになってしまったのである。
パレスチナ住民がヨルダン川にアクセスするには、ヨルダンまで出る他ない。
ジェリコ(パレスチナ)で出国手続き→イスラエルの許可を得て→ヨルダン川の橋を渡り→ヨルダンで入国手続き。片道2日の旅である。
水は国防に密接に関わってくる。東アジアの某国で進む水道民営化は国を危うくする。海外資本に運営を任せるなどという計画もあるようだが、自殺行為に等しい。
イスラエルとパレスチナのどちらの民が聞いても「日本という国はまったく危機感がない」と呆れるだろう。
~終わり~