
一帯を見下ろすアラブ人住宅の家主を射殺後、占拠を続けるイスラエル軍。=1日、東エルサレム・アルトゥール地区 撮影:田中龍作=
軍と軍の戦いで敵基地を占拠したというのは当たり前のようにある。だがユダヤ教徒の聖地でもある東エルサレムで目にしたのは、あまりに異様な光景だった。
場所はパレスチナ居住区のアルトゥール地区。ハイリー・ムーサ・アルカムさんの家は同地区を見下ろす場所にあったことが悲劇を招いた。
アルカムさん宅の最上階のテラスにはイスラエル兵が占拠しているではないか。兵士たちは地区を警戒するように見下ろしていた。
地元住民は次のように証言した。
先週土曜日(28日)、イスラエル軍がアルカムさん宅に押し入って来て、アルカムさんを射殺。父親と母親と従兄を逮捕した(現在、拘留中)。残りは追い出した。

占拠する家の入口を固めるイスラエル軍。取材車からの隠し撮りのため画面が曇っています。=1日、東エルサレム・アルトゥール地区 撮影:田中龍作=
アルカムさん宅の入口はイスラエル軍(厳密にいうと国境警備隊)が固めていた。
地元住民の証言を確かめるため、イスラエル軍にインタビューする必要があった。
「撃ち殺されてもいい。借金で首をくくるよりマシだ」と思うと勇気が出た。
田中「いつからこの家に駐留しているのか?」
イ軍「先週土曜日からだ」
住民の証言と一致するではないか。
田中「この家のファミリーはどうしているのか?」
イ軍「家の中にいる」
田中「家の中に入って、会いたい」
イ軍「だめだ」
家人たちが健在ならば、駐留が合法的ならば、田中に会わせればよいではないか。
田中「ここに駐留している理由は何か?」
イ軍「安全のためだ」
田中「イスラエルの安全のためか?」
イ軍「皆の安全のためだ」
いかにもの回答だった。

焼け焦げた乗用車。住民とイスラエル軍との間で攻防があったことを窺わせる。=1日、東エルサレム・アルトゥール地区 撮影:田中龍作=
「アラブ人に死を」と叫ぶベングビール国家治安相がナクバという名の民族浄化を計画しているのは、東エルサレムで3か所、そしてベドウィン(遊牧民)が暮らすジェリコ近くのアルカン・アルマルの計4カ所とされる。
東エルサレムでは家屋40軒がイスラエル軍によって破壊され、100人超が逮捕されている。死者は少年たちを含む8人。
アルカムさん宅の惨劇を見る限り、ナクバ(民族浄化)はもう始まっている、と言ってよい。
~終わり~