昨年末、イスラエルに誕生した狂信的宗教右派政権がさっそく本領を発揮している。
ウエストバンクでは毎日のようにパレスチナ人がイスラエル軍によって射殺されている。ここ2~3日、誰も殺されていないな、と首を傾げていると、その翌日には3人が殺される。
極めつけは26日、ジェニンで9人のパレスチナ住民が射殺されたことだ。
パレスチナ側は当然報復に出た。翌27日、東エルサレムのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)で、パレスチナ男性が銃を乱射し、ユダヤ人7人を殺したのである。
報復の応酬が始まったのである。狂信的宗教右派政権が弾圧する側にいるので、パレスチナ側の反発は大きい。過去にあった報復の連鎖よりも苛烈なものに発展する恐れがある。
この時点で田中はコソボ取材を切り上げてパレスチナに舞い戻ることを決めた。
30日、パレスチナに戻り着いた。イスラエル誕生(1948年)により夥しい数のパレスチナ人が殺され土地や家屋を奪われたナクバ(大災厄)が現実味を帯びていた。
大災厄という言葉は抽象的で分かりにくい。シンプルに言うとジェノサイド(民族浄化)である。
「アラブ人に死を」と叫ぶベングビール国家治安相がナクバを計画しているエリアは3か所。そのうちの2カ所は東エルサレムの難民キャンプである。
ナクバという名の民族浄化が起きそうなことを、米国のブリンケン国務長官が察知したのか。
30日、イスラエルを訪れネタニヤフ首相に自制を促した。翌31日にはパレスチナ自治政府のアッバス議長と会談した。「暴力がエスカレーションしないよう双方に要請した」ことをその後の記者会見で明らかにした。
イスラエルの犬と揶揄されるアッバス議長に武装勢力を止める力はない。アルジャジーラの映像で見る限りブリンケン国務長官は、終始、眉間に深いタテじわを寄せていた。決して楽観はできないということだ。
ジェノサイドがなければ、それに越したことはない。だが起きてから駆け付けるのでは遅い。惨劇の実態を、評論が加わる前に、読者に伝えなければならない。
~終わり~