開戦から52日目、4月18日。
首都を落としたいロシア軍と死守せんとするウクライナ軍との攻防で最激戦地となったイルピン。住民の帰還が本格化した。
墓地ではロシア軍に殺害された人々の埋葬がラッシュを迎えている。
墓堀り職人に「きょうは何穴掘りましたか?」と聞くと「6穴」と答えた。まだ午前11時半だった。平均で1日に8~10穴掘る、という。
タチアーナさんは夫を埋葬した。彼女は開戦翌日の2月25日、息子と共にキーウに避難した。
だが夫のローマンさんは「家を守る」と言って、イルピンに残った。
「これからシェルターに行くよ」「外に出て来たら電話するからね」。
だが、ロシア軍が撤退しても夫から電話は掛かってこなかった。
夫が死亡していることは政府のHPで知った。亡骸とは遺体安置所で1週間前に対面した。
「後頭部をカラシニコフAK47で撃ち抜かれていた」「いつ殺されたのか分からない」。
私は墓標を確かめて回った。死亡した日が「2022年3月●●日」と書かれている墓標もあれば、「2022年3月」としか書かれていないのもある。ローマンさんは後者のケースだ。
名前も死亡した日付も書かれていない墓標もあった。無縁仏である。
激戦地は行方不明者が多数いる。無縁仏であっても遺体が埋葬されただけ、せめてもの救いかもしれない。
今後、どれだけの数の墓穴が掘られるのか。想像もつかない。
~終わり~
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