開戦から33日目、3月30日。
ロシア国防省は29日、ウクライナとの停戦協議を受けて「キエフへの攻撃を劇的に減らす」と発表した。が、その舌の根も乾かぬうちだった―
キエフ北東の防衛線であるブロバリィにロシア軍陣地からと見られる砲撃が30日未明にあった。
砲撃に遭い破壊されたのは首都キエフへの食料供給基地だった。ロシア軍が迫る前線まで直線距離にして南にわずか18㎞の場所である。
黒焦げになり半壊した建物を撮影していると、2~3分も経たぬうちに、警察のパトカーが駆け付けてきた。
警察官2人が激しい剣幕で咎めてきた。「なぜ、ここが砲撃されたことを知っているのか?」と。
警察官は明らかに田中らをロシア側のスパイと疑っていた。
同行の通訳が「我々の取材ルートで割り出したんだ」と答えたが、信用してもらえなかった。
田中らはシークレット・サービス(ウクライナ版FBI)のオフィスまで連行された。
取調官は田中の通訳から現場撮影に至るまでの経緯を聞き、田中が日本人であることからも「スパイではない」との心象を半ば得たようだった。
確証を得るために田中が撮影した写真をチェックしておこうと考えたのだろう。
「あなたはジャーナリストだ。撮影した写真を見せたくなければ、見せなくてもいい。見せても構わないのだったら、見せて下さい」。取調べ官はソフトに告げた。
スパイの嫌疑はここで100%晴らしておかねば、今後の取材に支障が出てくる・・・田中はそう考え、写真を見せた。公共施設や軍の施設はもちろん撮影していない。
田中と通訳はすぐに解放された。
ブロバリィは10日前に訪れた時よりも数段と警戒が厳しくなっていた。
バリアーは増強され、住民が砦を築く光景も見られた。コンクリートブロックの隙間からは機関銃の銃身がニョッキリと突き出ていた。
幹線道路の脇に拡がる杉林は、杉の木が横倒しにされ戦車が通れないようになっていた。
戦車は道路を通る他ない。ウクライナ軍にとっては迎撃しやすくなる。
キエフ北東の防衛線には、決戦前夜のような緊張感が垂れ込めていた。
道すがら話しかけることのできた初老の男性は「ロシアの言うことなんか信じていない。いつもウソをつくから」と答えた。さも当たり前であるかのような表情だった。
~終わり~
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カードをこすりまくっての現地取材です。
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