開戦から25日目、3月20日。
第2のイルピンとなる恐れがあるブロバリィに入った。ブロバリィは大統領府などのある首都中枢から北東へ30㎞ほど行った郊外都市だ。
街が破壊されているわけではないが、ウクライナ軍の施設や物流倉庫が砲撃に遭った。街を包むようにして広がる白樺林で銃撃戦・砲撃戦も展開された。
白樺林の入り口には地雷原であることを示すドクロマークの標識が立てられていた。通訳は田中に「立ちションするため林の中に入ったら体ごと吹き飛ばされるよ」と言った。
アスファルトから外れて立ちションしてはならない。戦場取材の常識だが、通訳の心遣いに「Yes,Yes」と答えておいた。
ブロバリィのすぐ北までロシア軍が迫っており、そこは迎え撃つウクライナ軍の前線となっている。「ドーン」…大気を揺らす砲撃音が北から聞こえてきた。
市街地最後のチェックポイントを過ぎて、2~3㎞も北上しただろうか。幹線道路には車が1台たりとも走っていなかった。ゴーストタウンならぬゴーストロードだ。ブロバリィはまさに東のイルピンなのである。
軍の警戒はキエフの中心部に勝るとも劣らぬほど厳重だ。検問所の戦車止めやコンクリートブロックを許可なく撮影しようものなら簡単に撃ち殺されてしまう程のものものしさである。
ブロバリィがロシア軍の手に落ちれば、首都キエフは東と西から挟み撃ちに遭う。ロシアにとってはノドから手が出るほど欲しい街だ。遠からず激戦地となる日が来るだろう。
今のところブロバリィでジャーナリストの死者は出ていない。イルピンのようにジャーナリストが命を落とした地域は、軍が立ち入り禁止にする。それはそれで致し方のない措置だ。
だが、ジャーナリストが入れなくなれば、そこで何が起きているのか分からない。ブラックボックスに閉ざされてしまうのである。
ウクライナの現状を克明に記録しておかねばならない。写真で物的証拠を残しておかねばならない。
勝者に歴史を書き換えられる前に。
~終わり~
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カードをこすりまくっての現地取材です。
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