開戦から9日目、3月4日。朝ホテルを出るとまるで当てつけのように空襲警報が鳴り始めた。
田中は警戒しながらしばらく歩いた。路線バスが走っていた。バスを見ると車中は軍の兵士たちで一杯ではないか。貸し切りである。
真っ黄色の路線バスが、カーキ色の軍服を着た兵士たちを積んで走る。あまりにシュールだ。
写真を撮って読者にお見せしたかったが、軍にレンズを向けるのはご法度である。拘束されれば、今後の取材はできなくなる。
軍貸し切りの黄色いバスを見送って10分としないうちだった。「ドン」。重低音の爆撃音が街に響いた。日本時間の午後4時45分頃だ。
それを皮切りにほぼ10分おきに爆撃音が空気を振動させる。音の方角はいずれもドニエプル川の向こう側である。
川のこちら側には大統領府、国会議事堂、中央銀行などの国家中枢施設がある。キエフ市中心部だ。
ロシア軍の陸上部隊がドニエプル川を渡って、キエフ中心部に入ってくるようなことになれば、マスコミは「露軍、首都を制圧」の見出しを躍らせるだろう。目に浮かぶようだ。
だが田中は新たな戦局が訪れるものと見ている。西側諸国にとって本当の戦争が始まるのである。
~終わり~
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皆様のお力で田中龍作のウクライナ報告は続いています。カードをこすりまくっての取材です。
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