閣僚経験のある議員から田中のもとにDMが届いた。「太郎さんは小沢さんのもとで政権を担うべき人材である」と。菅首相が退陣表明した翌日のことだった。
歴史に If はないが、山本太郎が師匠のもとを飛び出さず、一定規模の政党に身を置いていたら、今頃、総理候補の一人に列せられていたかもしれない。
山本が国民に訴え掛けることのできる稀有な政治家だからだ。
昨年の都知事選を機に独自路線を強めていた「れいわ」が野党共闘に参加することになった。市民連合の仲介による政策協定の調印式が、きょう8日、国会内であり、代表の山本太郎が署名した。
政策協定は「原発のない脱炭素社会の追求」「最低賃金の引き上げ」など多岐に及ぶ。れいわが目指す消費税ゼロではないが、『5%』で折り合いがついた。
調印式の後、囲み会見があった。山本代表は「今のひどい政治を終わらせるためには大きな塊になる必要がある」と妥協の理由を説明した。
都知事選後、田中はれいわを厳しい調子で批判してきた。それでも、きょうの囲み会見で山本は「龍作さん、何か質問はないですか? カモン」とジェスチャー入りで促してきた。
都知事選後に構成員が起こした「命の選別発言」トラブル。思うように行かない資金調達。党勢の伸び悩み・・・
試練が山本太郎を一回り大きくしたようだ。田中は10年近く山本を見つめてきたので、手に取るように分かった。
大物政治家と小物の分水嶺は、自分を批判してくる記者を、逆に味方につけることができるか、否かだ。包容力の差である。
山本は大物政治家の仲間入りをしつつあるのかもしれない。
小物の政治家は一度でも厳しい質問をすると、そのジャーナリストを「敵認定」し拒絶する。誰とは言わないが。
囲み会見、最後の話題は「次期総理は誰になるか?」となった。当然のように河野、岸田の名前が挙がった。
山本が「龍作さんは誰がいいと思いますか?」と聞いてきた。
田中は「山本太郎だ。木内みどりさんが生きていたら、きっとそう言うよ」と答えた。
(文中・敬称略)
~終わり~