人々は洪水となって駆けていた。何か事件でも起きたのかと呆気にとられたが、落ち着いて見ると、洪水の向かう先は配給物資を積んだトラックだった。
黒山の人だかりとなっていて、何人いるのか数えきれない。「ちゃんと並べ」とでも怒鳴っているのだろうか。兵士が棒きれで難民たちを整列させていた。
最後尾は配給物資を得るのに数時間待つことになるだろう。それでも母親たちは子供に食べさせたい。
この日の配給物資は「米」「豆」「食用油」と「靴」だった。
米は前回までひと月25㎏の配給だったが、今月から30㎏に増えるという。孫と子、計6人の育ち盛りを抱えるファリダ・ベガンさん(45歳)は「それでも足りない」と嘆く。
ハシナさん(40歳)は娘2人との3人暮らしだ。夫はミャンマー国軍の掃討作戦で射殺された。
ハシナさんはこの4ヵ月間、配給を受けていない。WFP(国連世界食糧計画)の登録番号が間違っていたためだ。(ミャンマーから共に逃れてきた)親戚から食料を分けてもらい、飢えをしのいだ、という。
「今回はロヒンギャのリーダーが軍(※)に頼んでくれたから配給をもらえるはず」と祈るような表情で語った。
WFPは1日900人のペースで食料配給の登録手続き(写真)を進める。こちらも黒山の人だかりだ。スタッフが登録番号を書き間違えたとしても責めることはできない。
昨年8月25日に始まった国軍の掃討作戦によりロヒンギャ65万人がどっと押し寄せた。UNHCR(国連高等難民弁務官事務所)のベテラン職員が「こんな凄い難民をかつて見たことがない」と驚く。
WFPの登録ミスは、ごく短期間に大量の難民がなだれ込んで来たことによる悲劇だ。ハシナさんは、きょう、配給を受けることができたのだろうか。
〜終わり~
(※)
配給作業はバングラ国軍の管理の下で行われる。NGOが別途独自で行うケースもある。
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読者の皆様。ロヒンギャ難民問題は日本政府のミャンマー支援が第2の惨劇を引き起こしかねません。その実情を伝えるために現地取材に来ました。カードをこすりまくっての借金です。ご支援なにとぞ宜しくお願い申し上げます…https://tanakaryusaku.jp/donation