「トランプ大統領で戦争が終わる」などと無邪気に喜ぶインテリ諸氏は、あまりにお花畑である。
ガザを力づくで停戦に持ち込んだとしても、パレスチナはさらなる苦難に見舞われるのだ。
トランプは大統領1期目(2017年1月~2021年1月)の際、歴代の米国大統領の中で最も過酷な対パレスチナ政策をとった。来年1月から始まる2期目では、それがさらに過酷になる。
トランプの1期目で何よりも象徴的だったのが、米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転したことだった。2018年のことである。
イスラム教徒にとっての聖地であるエルサレムは、将来パレスチナが独立した時の首都だった。
そこにイスラエルの代理人的存在である米国が大使館を置いてしまったのだ。乱暴狼藉で鳴らしたブッシュ大統領(2001年1月~2009年1月)でさえできなかったことであった。
パレスチナの独立を否定するに等しい愚行だが、米国大使館移転は手始めに過ぎなかった。
トランプが1期目の2020年に明らかにした中東(パレスチナ)和平構想がどれだけ酷いものか。いくつか例を挙げてみよう。
▼UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の消滅。
UNRWAは海外からパレスチナへの食料・医薬品の援助の窓口になっていることで知られているが、パレスチナ(ガザ・西岸)の小中学校を運営しているのも、このUNRWAだ。
UNRWAを消滅させるということは、子供たちの学ぶ機会を奪うことになる。
イスラエル国会(クネセット)が28日、UNRWAの活動禁止を決め、国際社会に波紋を広げたが、トランプ構想の既定路線に沿ったまでに過ぎない。
▼ユダヤ人入植地の合法化。
イスラエルが第3次中東戦争(1967年)で占領したのを契機に、ユダヤ人を住まわせている入植地は、ヨルダン川西岸(ウエストバンク)と東エルサレムに160か所以上あり、ユダヤ人70万人以上が暮らす。以上とあるのは年々増えているからだ。
国連安保理は決議242号で、「占領地からのイスラエル軍の撤退」と「パレスチナの主権の回復」を求めた。国際人道法を定めたジュネーブ条約違反だからだ。
にもかかわらずトランプの和平構想は、ユダヤ人入植地は違法でないとしている。
これまで国際社会の目を憚りながら入植地を広げてきたイスラエルだったが、トランプ政権2期目からは大手を振って入植地を拡大させることになる。
ユダヤ人の入植地が広がる分、パレスチナ人の農地や宅地は奪われるのだ。それも武力で。
▼この他にも難民キャンプの解体などがある。そもそもイスラエル建国(1948年)と第3次中東戦争の結果、大量発生したのがパレスチナ難民である。トランプはイスラエルが作り出した負の遺産を無かったことにしようという魂胆なのだろうか。
パレスチナ民族の威厳を奪い、人間としてまともに生きる権利をも奪うのが、トランプ構想の正体なのである。
ちなみにトランプの選挙を支えているのが、キリスト教福音派だ。イスラム教徒の聖地アルアクサの丘を潰してユダヤ第2神殿を再建すれば、キリストが再降臨すると信じ込んでいる狂信主義者たちだ。
トランプがパレスチナを徹底弾圧しようとする理由がここにもある。
~終わり~
《読者の皆様》
パレスチナ取材は危険と法外な経費がかかりますが、誰かが伝えなければなりません。