「きょうは命日なんです」。神田で生まれ育った夏子は、おととし4月27日未明に伐採されたイチョウを我が子のことのように話す。
イチョウ並木の伐採に反対する住民と共に神田警察署前にいた彼女は、学士会館の向こう岸に人だかりができていることに気付いた。200mほど西である。
「イチョウが危ない」。すぐに人だかりの方に走った。すでに千代田区がバリケードを作っていた。12時30分頃だった。
夏子は側面に回って植え込みからバリケードの内側に飛び込んだ。すぐ目の前にイチョウがあった。エリアの最西端から3本目の木だった。
仲間の住民も駆け付け、千代田区の職員たちと揉み合いになった。
20分もすると警察官十数人がやってきた。千代田区が呼んだのである。警察はバリケードを突破しようとする住民を阻んだ。
気が付くとチェーンソーが凶暴な音を立てていた。最西端と手前のイチョウ、計2本が伐採された。
3本目は夏子がすぐ傍にいたため伐採を免れた。
それから2か月後、6月29日のことだった。千代田区は道路下の配管をチェックするための試掘工事を始めた。
「どんな工事になるのか?」住民が問うたところ千代田区は「資料を作成中」と答えた。間もなく2年が経とうとしているが、資料は何ひとつ提示されていない。
その後も千代田区は嘘を吐き続ける。7月7日には道路公園課の担当職員が「工事をする時は事前に(神田警察通りの街路樹を守る会)代表の滝本(幾子)さんに連絡します」と口頭で住民に告げた。
住民たちは言葉を信じて木守りを休んだ。
ところが翌2023年の2月6日未明、千代田区は襲来、事前の連絡は一切なくイチョウ4本を切り倒した。騙し討ちだった。
念のいったことに前2022年4月に切った2本を再び切った。
2023年4月11日未明、千代田区は計略としか思えない挙に出る。区職員、作業員、ガードマンなど計50名という大部隊(住民の情報公開請求による)で、やってきた。
夏子をはじめ住民たちはイチョウにしがみついて伐採を阻止した。千代田区は1本も切れなかった。
千代田区は木にしがみついた住民ら8名が工事を妨害したとして、工事区間(神田警察署前から学士会館前)への立ち入りを禁止する仮処分を東京地裁に申請した。これが狙いだった。
千代田区が8名の立ち入り禁止を求めた工事区間は、神田警察署前から学士会館前までの区道約200m。生活道路である。
千代田区らしいといえばそれまでだが、裁判所は常軌を逸した生活道路への立ち入り禁止を認めなかった。
かわりに工事帯という限定的なエリアのみを立ち入り禁止とした。今年3月11日のことだ。
とはいえ住民8人は木にしがみ付くことができなくなった。千代田区の目論見は功を奏したといえる。
以降、仮処分の対象となっていない人たちが、イチョウに寄り添い並木を守っている。
18本は切り倒されたが、14本(うち2本は移植予定)は生き残っている。
千代田区はこの連休中にも伐採にやってくるとの見方もあり、イチョウ並木は生命の危機にさらされている。
~終わり~
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《読者の皆様》
昨年末から借金が続いております。赤字に次ぐ赤字です。