「ダダダダ」。規則正しい間隔で銃声が響いていた。銃撃戦でないことは明らかだ。「銃殺刑だろうか」「いやイスラエルには死刑はないはずだ」…
怪訝な顔の田中に案内してくれたパレスチナ人識者が謎を明かしてくれた。「ここはイスラエル軍の基地でもあるんだ。射撃訓練の音だよ」と。昨年12月、オファ刑務所を訪れた時のことだ。
それから約11ヵ月。ガザ人質との交換で解放されるパレスチナ人受刑者がオファ刑務所から出てくると聞き、再び訪れた。
刑務所に近づこうとすると目がチカチカと痛くなってきた。催涙ガスを散布しているのだ。いつ来ても刺激的な刑務所である。さすがはイスラエル軍だ。
オファ刑務所はパレスチナの中心都市ラマラ近郊※にあり、イスラエルによる占領統治に異論を唱え反抗したパレスチナ人約2千人が収監されている。(※西岸のイスラエル領)
具体的な罪状は「フェイスブックへの書き込み」「イスラエル軍への投石」などだ。つまりは政治犯である。
民主主義国家の常識に照らし合わせれば無罪だ。20年も獄中に閉じ込められたままのパレスチナ人もいる。
人質との交換で解放された受刑者たちは、同じくラマラ近郊にある赤新月社のホールで同胞の歓迎を受け自宅に帰還する。
政治犯の収容とは別にオファ刑務所には重要な任務がある。
平時にイスラエルからガザに搬入されるありとあらゆる物資はオファ刑務所に集められ、品目や量をイスラエル軍が厳密にチェックする。(戦時中の現在、エジプトから搬入されている緊急支援物資のことではない)
ガザに搬入される物品のどれ位がロケットなどに軍事転用されるかということもイスラエル軍は把握できる。トンネルからの“密輸”は別物。
イスラエルに不都合な政治犯を収監する刑務所は、同時に物資の搬入までも一手に握る。生かすも殺すもオファ刑務所しだい。占領支配の現実は残酷である。
~終わり~
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【読者の皆様】
最盛期より幾らか安くなったとはいえ、ドライバーへは危険手当も含めて1日600ドル(約9万円)も払わなければなりません。
ホテル代も入れると1日平均10万円を超えるコストになります。毎日取材に出るわけではありませんが、1ヵ月に換算すると途方もない金額になります。
イスラエル軍の銃口よりも借金に怯えながらの取材行です。
ガザに隠れがちですがヨルダン川西岸でも着々と民族浄化が進んでいます。
ジャーナリストがこの世の生き地獄を伝えなければ、エスニック・クレンジングは歴史上なかったことになります。
田中龍作にもう少しパレスチナ取材を続けさせて下さい。