敗戦の日、靖国神社。78年前と同じように蝉時雨が境内を包んでいた。
田中の母方の祖母は、息子をニューギニアの戦線で失っている。菩提寺の住職が遺骨収集団に加わり現地に弔いに行くまで、約30年かかっている。
それまで祖母は靖国神社に行くことで息子の御霊に会っていた。
ロシアのウクライナ侵攻を機に日本にも戦争の足音が忍び寄るようになった。
「俺たちは死にきれんぞ。成仏させてくれ」。230万の英霊が草葉の陰から呻くのが聞こえてくるようだ。
敗戦直後に生まれた男性は怒気を含ませながら語った。「英霊たちは地上に降りて来れない。バカ(政治家)がいるから」。
別の男性はまるで見透かしたかのように話す。「自民党は本気で国防を考えていない。日本を守る気はない」と。
軍拡に突き進む岸田政権も危ういが、プロパガンダをそうとは知らずにコロっと信じ込む国民はさらに危うい。
今月7日から台湾を訪問した麻生副総裁が講演で「戦う覚悟が抑止力になる」と発言したことに中国が反発を強めた。
当然、中国国営通信・新華社は「台湾世論、戦争あおる麻生太郎氏の発言を批判」と報じた。中国によるプロパガンダである。
これを伝えた共同電はしっかり「新華社」と書いているのに、多くの日本人は額面通り受け取った。ご丁寧にも「台湾の世論は麻生発言を批判している」とツイートした。
これほど乗せやすく煽りやすい国民はいない。精神構造は戦前戦中とまったく同じだ。「鬼畜米英」は「鬼畜米NATO」となって、今なお健在である。
ニセ旗作戦で沖縄県内のいずれかの基地のレーダーなどを破壊し騒擾状態を作り出す。そこで「中国は米軍から沖縄を解放してくれるぞ」と吹聴すれば国民はいとも簡単に二分されるだろう。
「外交」「外交」と経文のように唱える人々の多くは教条的な反米親露派だ。国際情勢の把握も教条的な理解に基づく。大概はロシアのプロパガンダを信じ込んでいる。
1945年(昭和20年)2月にソ連は対日参戦を決め、5月にドイツが降伏するや、物資や兵力をソ満国境に大移動させていた。
にもかかわらず日本は、8月9日にソ連が満州に雪崩れ込んでくる前夜まで、ソ連に米国との和平の仲介を依頼していたのである。その結果起きた惨劇はあらためて言うまでもない。
普通に情報が取れていれば、もっと早く戦争を終結に導くことができた。
この国はまた同じ失敗を繰り返そうとしているようだ。
~ 終わり~
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