「ロシアが悪い」「いや、米国が悪い」の問題ではない。日本人の人間性が問われているのである―
BBCの映像で見る限り、ジョージア国会議事堂前は、「外国スパイ法(別名:ロシア法)」に反対するデモ隊で埋め尽くされていた。数万人規模である。
デモ隊の女性は機動隊の激しい放水を浴びてもEUの旗を手放さない。男性参加者たちが集まってきて彼女を支える。
放水と言うが水ではない。催涙ガスを発生する有毒な液体なのである。体に付着するとせき込んで呼吸が苦しくなる。皮膚はヒリヒリする。彼らはそれでもEUの旗を守るため有毒な放水を浴び続ける。
BBC記者のインタビューにデモ参加者は「We are Europe」と答えた。
ウクライナでまったく同じフレーズを聞いた。欧州の一員になれば、ロシアに侵略される可能性はゼロに近くなるのだ。
ロシアに脅かされ痛めつけられ続けてきた旧東欧の人々の痛みが日本人に分かるだろうか。
ネット信者はしたり顔で「デモにはアメリカから金が出てるんだよ」と言うだろう。
そう。ウクライナのマイダンの戦い(2014年)でも確かにアメリカから日当が出ていた。田中はそれを現地で聞いている。
ウクライナの人々は治安部隊に射殺されても射殺されてもデモを続けた。そしてロシアの傀儡であるヤヌコビッチ大統領を追い出したのである。日当で命を懸けられるだろうか。
エマニュエル・トッドなるインチキ歴史学者が言うようなクーデターではなかったのである。
デモの原因はヤヌコビッチ大統領がウクライナ国民との間で約束したEU加盟申請を反故にしたためだ。反故になったことをニュースで知った市民たちがマイダン(広場)に集まり、それが日増しに膨らんだのである。
オピニオンリーダーが「米国がウクライナに戦争をさせている」「ゼレンスキー大統領が国民を戦争に駆りたてている」とまことしやかに言い、ネット民たちが増幅する。
そうだろうか? 田中はキーウの米国大使館がウクライナ軍人や政財界人を招いた講習会に出席したことがある。ドンバス戦争が始まった2014年のことである。
元ヨーロッパ米軍総司令官のマーク・ハートリング氏が軍備増強を説いていた。
そのうえで言う。この戦争は民族自決の戦いである。取材を続けていてそれを痛感する。
親露派の御仁たちが言うように「ウクライナもウクライナ国民も戦争をさせられている」のではないのだ。
理由はこうだ―
田中は数えきれないほどの街や村を回り、数えきれないほどの住民に話を聞いた。100人中99人までが「ロシア軍をウクライナの地から追い出すまで戦うべき」と答えた。国民の姿勢は「徹底抗戦」である。
「もし中途半端なところでゼレンスキー大統領が停戦したらどうするか?」。会社員の男性(30代)に聞いた。
男性は「そりゃ(政権を倒す)マイダン(のデモ)になるよ」とニベもなく答えた。
国民が徹底抗戦をゼレンスキー大統領に迫っているのである。
オピニオンリーダーたちが撒き散らすもう一つの大ウソを指摘しよう。
2014年、ロシア軍はクリミア半島を制覇すると、その勢いのままドンバスに侵攻した。
田中は現地にいたが、「ロシア系住民が迫害されていて、彼らを保護するためロシア軍が乗り出した」なんて聞いたことがない。少なくともそのような状況ではなかった。
土地と食料を奪われ、肉親を殺され、最愛の人がレイプされる。生き地獄である。彼らは「ロシア軍を追い出すまで戦う」と話す。躊躇も てらいも ない。
我々日本人もウクライナ人も同じ人間である。
親露派のオピニオンリーダーたちは、人の痛みが分からないのだろうか。陰謀論がそんなに大事なのだろうか。
~終わり~
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