
若者たちはイスラエル軍に射殺された少年の柩(写真奥)を掲げモスクに向かった。キャンプの狭い路地に銃声が響き、硝煙が立ち込めた。=5日、ナブルス・バララタ難民キャンプ 撮影:田中龍作=
パレスチナ住民が虫けらのように殺されるナブルスの難民キャンプ。侵攻してくるイスラエル軍を取材する方法は、理論的にはある。実現したいが…
部隊のオペレーションを見れば、侵攻目的の一端が見える。それはパレスチナ紛争が75年も続く理由の一端を知ることにもなる。
A案)住民宅に一晩か二晩泊めさせて頂く。
まず嫌がられるだろう。かりに泊めさせてくれたとする。窓辺から外国のジャーナリストが撮影していることが分かれば、皆撃ち殺されるか、逮捕されるだろう。
実際、我がフィクサー(通訳兼案内人)は、10年前、欧州の社会活動家をユダヤ入植地のゲートまで案内しただけで逮捕された。

車の中から隠し撮りしたのだが、イスラエル兵はしっかり田中を見ていた。=5日、ナブルス入口 撮影:田中龍作=
B案)物陰に潜んで撮影する。
イスラエル軍は難民キャンプ内を探索するので、十中八九みつかる。
難民キャンプではないが、田中は4年前、イスラエル軍のアップを撮ろうと国境の土山に潜んだ。だが簡単に見つけられた。
銃口を向けられ、兵士の指は引き金にかかっていた。小隊長の制止がなかったら、田中は射殺されていただろう。
国境でこのありさまだ。イスラエル軍が神経を尖らす難民キャンプで見つかれば、どうなるか。考える必要もないだろう。
A案B案とも実現は容易ではないようだ。撮れてワンカットか2カットだろう。遺作にしようにも、カメラの回収は難しい。
「ジャーナリストを通してしか世界の現実を見ることはできない」と期待して下さるむきもあるが、田中は臆病者ゆえ期待に応えることはできない。

苛烈な武装闘争でパレスチナ問題を世界に知らしめたアラファトは、難民キャンプでも英雄である。=5日、ナブルス・バララタ難民キャンプ 撮影:田中龍作=
~終わり~