ウクライナ取材は軍の規制との戦いだった

兵員と戦略物資輸送用のウ軍車両が森に隠されていた。偵察衛星からもドローンからも発見できない。ウ軍は間もなく南に進撃し戦略要衝のリマンを奪還した。この写真を撮影直後に公開していたら田中のアクレデは没収されていた。=9月、ハルキウ州 撮影:田中龍作=

 ポーランド国境の駅で出入国管理官が列車に乗り込んで来てパスポートの提示を求めた。通常なので普通にパスポートを差し出した。

 田中のパスポートを見た管理官は「ウクライナに住んでいるのか?」と尋ねてきた。怪訝な表情である。それもそのはずだ。

 2022年も11カ月が経過したが、うち9カ月はウクライナに滞在しているのだから。不審に思われても仕方がない。

 田中は「私はジャーナリストです」と答え、ウクライナ軍のアクレデ(取材許可証)を見せた。管理官は「オー」と言い立ちどころに納得した。

 もしアクレデがなかったら、列車から降ろされて延々と尋問が続いていたことは間違いない。国の外にスパイの疑いがある人物を放つわけには行かないのだ。

 激戦地のヘルソンでCNN、スカイTV、地元メディア2~3社のクルーが、アクレデを没収された。軍の許可なく取材したためとされている。14日頃、明らかになった。

 CNNやスカイTVのクルーは国境を無事通過できただろうか?心配である。

爆撃された発電所の写真をSNSに投稿したブロガーが逮捕されたケースもある。上記写真は件の発電所ではない。=10月、ヴィシュグラード 撮影:田中龍作=

 激戦地取材の場合、軍は「橋は撮るな」などと具体的な被写体の名称を挙げて規制をかける。撮影した画像・動画の公開についても、直後の公開はご法度である。

 田中も4月にキーウ郊外の激戦地を取材した際、軍から「画像の公開は48時間後」との制約を課せられた。

 激戦地の画像・映像から敵に部隊の展開場所が特定される恐れがあるからだ。ネットが発達した昨今、戦場取材の常識として心得ておかねばならない。

 過日、ザポリージャ原発の記事をめぐって、記者出身の人物から「砲撃点と着弾点を割り出せばすぐに分かる」などと突っ込まれた。この人物は原発には詳しいが、ただの一度も戦地での取材経験はないものと見られる。

 砲撃点は最大級の軍事機密である。もし田中が砲撃点を記事に書き込んだりしたら、アクレデ没収は免れない。

 アクレデが没収されるほどのペナルティーが科せられると現地人のフィクサー(通訳兼案内人)の生活が吹っ飛ぶ。

 彼らには女房・子供がいる。アクレデが没収されるようなことはジャーナリストとしてやってはいけない。いや人としてやってはいけない。

 取材は軍による規制との戦いだった。

     ~終わり~

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