ポーランド国境の駅で出入国管理官が列車に乗り込んで来てパスポートの提示を求めた。通常なので普通にパスポートを差し出した。
田中のパスポートを見た管理官は「ウクライナに住んでいるのか?」と尋ねてきた。怪訝な表情である。それもそのはずだ。
2022年も11カ月が経過したが、うち9カ月はウクライナに滞在しているのだから。不審に思われても仕方がない。
田中は「私はジャーナリストです」と答え、ウクライナ軍のアクレデ(取材許可証)を見せた。管理官は「オー」と言い立ちどころに納得した。
もしアクレデがなかったら、列車から降ろされて延々と尋問が続いていたことは間違いない。国の外にスパイの疑いがある人物を放つわけには行かないのだ。
激戦地のヘルソンでCNN、スカイTV、地元メディア2~3社のクルーが、アクレデを没収された。軍の許可なく取材したためとされている。14日頃、明らかになった。
CNNやスカイTVのクルーは国境を無事通過できただろうか?心配である。
激戦地取材の場合、軍は「橋は撮るな」などと具体的な被写体の名称を挙げて規制をかける。撮影した画像・動画の公開についても、直後の公開はご法度である。
田中も4月にキーウ郊外の激戦地を取材した際、軍から「画像の公開は48時間後」との制約を課せられた。
激戦地の画像・映像から敵に部隊の展開場所が特定される恐れがあるからだ。ネットが発達した昨今、戦場取材の常識として心得ておかねばならない。
過日、ザポリージャ原発の記事をめぐって、記者出身の人物から「砲撃点と着弾点を割り出せばすぐに分かる」などと突っ込まれた。この人物は原発には詳しいが、ただの一度も戦地での取材経験はないものと見られる。
砲撃点は最大級の軍事機密である。もし田中が砲撃点を記事に書き込んだりしたら、アクレデ没収は免れない。
アクレデが没収されるほどのペナルティーが科せられると現地人のフィクサー(通訳兼案内人)の生活が吹っ飛ぶ。
彼らには女房・子供がいる。アクレデが没収されるようなことはジャーナリストとしてやってはいけない。いや人としてやってはいけない。
取材は軍による規制との戦いだった。
~終わり~