開戦から85日目、5月21日。
マスグレイブが見つかり世界を震撼させたブチャ。一体、どれほどの数の住民がロシア軍によって虐殺されたのだろうか。
自らの手でマスグレイブを掘った聖アンドリュウー教会のアンドレイ神父は、忌まわしいその日を正確に記憶している。3月10日のことだ。
ブチャ市長によると遺体は117体。あくまでも同教会のマスグレイブで見つかった遺体の数である。
3月11日、12日に命からがらブチャを脱出した住民は、街に散乱していた夥しい数の遺体を目撃している。
遺体の埋葬をロシア軍が許さなかったからである。遺体に爆弾が仕掛けられていたりしたので触れなかったこともある。
オクサナさん(女性50代)はロシア軍による占領期間中、恐怖に怯えながら自宅に留まった。隣人宅でロシア兵は宴を催した。彼らの胃袋を満たしたのは盗んだワインや食品だ。宴が終わると家に火を点けて燃やした。証拠隠滅のためだろう。
無法者国家による侵略は国民の生命、財産を危険にさらす。確かに脅威だ。
タカ派議員はその危機感を巧みに利用して武装強化、果ては核保持を声高に叫ぶ。
だが「敵基地先制なんちゃら」に走れば、敵から撃ち返される。敵のミサイルを迎撃したとしても破片は地上に落ちて爆発し甚大な被害をもたらす。
防衛に名を借りて攻撃に走ることこそ脅威なのである。
同じくらい愚かで恐ろしいのが、一部言論人が吹聴する「ネオナチ説」「自作自演説」である。
「国民を総動員して戦争に駆り立てているのはゼレンスキー大統領だ~」「ウクライナ軍の仕業だ~」・・・これらがプロパガンダであることを私は現場証拠を挙げながら指摘してきた。
陰謀論の危うさは人々をして実相を見えなくさせることだ。事実上のノーガード状態となるため、こちらも危険だ。
現場に一歩も足を踏み入れず、住民の声を一言も聞いたことがない言論人が唱える「ネオナチ説」「自作自演説」からは人間の血の温もりがまったく伝わってこない。
住み家を破壊され、親族や友人が頭を撃ち抜かれる。一瞬にして髪の毛が真っ白になるような拷問に遭う。
実態が伝われば戦争とはいかに惨いことかが分かるはずだ。
海外取材経験豊かな古参の社員カメラマンがいみじくも指摘する。
「日本のマスコミって日本が戦場になっても危険な所には行かないのだろうか」と。
外電から借用した映像・画像。外電の翻訳。これでは戦争の実態は伝わらない。記者が現場を見ていないのだから。
「ヒュル・ヒュル・ヒュル」。砲弾が飛び交う前線を見て音を聞けば、戦況を把握できる。
脅威を煽る好戦論者に利用されることもない。「ネオナチ説」「自作自演説」のウソも見抜ける。
現場のリアルを伝えることで、人々に戦争の実態を知ってもらえる。ひいては人々を守ることになる。
日本人自身による戦争報道が必要だ。
~終わり~