開戦から22日目、3月17日。
20日間以上も激しい戦闘が続くイルピンに取り残されていた住民が、命からがら脱出してきた。
これまで何人が脱出したのか、まだ何人が取り残されているのか? 現場の赤十字スタッフに聞いたが、「お答えできない」と拒否された。
田中がイルピン入り口に着いた時、避難してきたばかりの3~4家族10人余りが、赤十字から紅茶や食料を受け取っていた。
ある避難女性(40代)はイルピンのど真ん中に住んでいた。そこだけは真空地帯のように銃撃がなかった。だが周囲の全方角から銃声が聞こえてきた、という。
「2家族が1つの家に隠れた」「兄の家は爆撃で破壊された。兄家族はホームレスになる」。女性は声を震わせた。
「トン・トン・トン・トーン」…鼓膜が痛くなるような連続音は、ウクライナ軍がロシア軍に向けて機関砲を放つ音だ。
両軍が対峙する最前線は、2日前(昨日は外出禁止令のため来られず)に来た時とほとんど同じ位置にあった。
「ドドーン、ゴロゴロゴロ」。雷が落ちたような音はロシア軍陣地の方角からだ。何か建造物を破壊しているのだろうか。
イルピンが落ちてもロシア軍が首都中枢に雪崩込んでこないよう、道路には幾重にもバリアが設けられていることは、16日付の拙稿で報告した。
きょうは人間が籠ってロシア軍の進撃を防ぐ砦を取材した。
イルピンから南東にわずか2㎞の地点にある砦は、キエフの街中にあっては、最初にロシア軍を迎え撃つことになる。
領土防衛隊の砦だが、住民が築き、住民が護る。200人が出て1日で築き上げたという。
横幅5m以上のコンクリートブロックの上に古タイヤと土のうが置かれ、銃撃戦に備える。
奥行き数十メートルの塹壕もあって本格的だ。ロシア軍に場所を特定されないため、カメラを向ける方向が限定された。
砦の雰囲気をお見せできないのが残念だ。田中はここで紅茶とスウィーツを御馳走になった。
最前線の砦は最激戦地イルピンの入り口にある。ここは領土防衛隊の隊員が護る。コンクリートの箱だ。中から煙突が突き出て煙があがっていた。暖を取るために薪が焚かれているのである。
「ロシア軍が攻めて来たらどうするか?」田中は聞いた。
「撃つ。(キエフの)中には入れさせない」。砦を護る人々は、街中でもイルピン入り口でも異口同音に言った。
~終わり~
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カードをこすりまくっての現地取材です。
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