横浜市長戦最終日の桜木町駅前。小此木陣営の運動員たちがノボリを立てたり、カラーコーンを置いたり、と街宣会場の設営に追われていた。
「あら龍作さん」。声を掛けられた田中は、我が目を疑った。目の前に現れた知人の女性が、れっきとした左翼陣営の一員だったからだ。
彼女は小此木候補の演説を聞きに来たという。
「??・・・ヤジを飛ばしに来たんでしょ?」と聞くと、そうではなかった。
理由を次のように説明してくれた—
6年前、彼女は当然のように安保法制(いわゆる戦争法)に反対する活動に懸命だった。横浜市民の彼女は小此木事務所へ抗議に行った。
門前払いを覚悟のうえだった。ところが小此木氏は彼女を事務所に招き入れ、話に耳を傾けてくれた。
それ以来のファンで、「あす(22日)は小此木さんに入れる(投票する)」と嬉しそうに“告白”するのだった。
小此木氏は父の彦三郎(故人)から「人を裏切るな、ウソをつくな」と教えられたという。
小此木氏は石破幹事長(2012~2014 年)の下で副幹事長を務めていたが、昨年の総裁選では菅官房長官(当時)を応援した。小此木氏にとって父(彦三郎)の秘書だった菅氏は親戚にも等しい。菅陣営に入るのは当然の成り行きである。
昨日の敵は今日の友。今日の友は明日の敵。裏切りは永田町の常識なのに、小此木氏は「私は石破さんを裏切った」と口に出して悔いる。正直だ。
選挙期間中、フリージャーナリストから「菅総理から応援されているのがマイナスになってるんじゃないですか?」と幾度も質問された。
その度に小此木氏は「関係ない」と否定した。腹のなかでは、菅首相の支援はさぞかし迷惑だったろうに。
もちろん小此木氏にも暗部はあるだろう。だが敵陣営であっても人の話に耳を傾ける。ウソはつかない。裏切らない・・・人倫の基を外さない氏は、人として信用できる。
翻って野党はどうだろう。
「コンクリートから人へ」「消費税は上げない」と公約を掲げて政権を取った。ところがオヤジを追い出して、家訓(公約)を反故にしてしまった。
それが野党第一党の党首たちである。
「自公を倒すためには立憲に頑張ってもらうしかない」。立憲支持者の多くが言う。こんな消極的支持で政権が取れるわけがない。低空飛行を続ける支持率を見れば一目瞭然だ。
政治は人である。人間として魅力ある人物が野党のリーダーにならない限り政権交代はない。
~終わり~