ケヤキ並木から歩道橋をまたいで中央広場に入ると、「ウォーン」というケタタマシイ音が耳に飛び込んできた。
音を立てているのはチェーンソーだった。作業員が古木・巨木の枝にチェーンソーを入れると木の粉が飛び散った。
テロに遭っているようだった。「環境テロ」とでも言うのだろうか。
代々木公園は東京都立である。田中は別の作業員に尋ねた。「私は納税者です。何のために木を切っているのか?」と。
作業員は「アソコに聞いてくれ」とアゴでしゃくった。巨大な幹には案内板が巻き付けられていた。問い合わせ先は「東京都オリパラ準備局」とあり、電話番号も書かれていた。
オリンピックのパブリックビューイング会場を設営するため代々木公園の樹木が切られる。SNSで知っていたが、当事者に確かめる必要があった。東京都オリパラ準備局に電話取材した。
電話対応した担当者は「伐採ではなく剪定」としたうえで、木を切っているのは「ライブサイト(パブリックビューイングの巨大スクリーン設置)の関係で、車が入るのに危なくないように枝葉を切り落とす」と説明した。
パブリックビューイングを運営する業者はどこかと聞くと、「電通」と答えた。
感染防止を謳うオリンピックで大勢の人を集めるパブリックビューイングをするのは危険ではないか?と質問すると、当初の計画より減らすことになろうとの答えだった。
木を切っていたのは直径約50メートルの大きなエリアで、フェンスで囲われていた。こうしたエリアが36か所もあるのだ。これらのエリアも木を切るという。
オリパラ準備局は「通路が通る時に危なくないようにするため」と日本語にならない説明をしたが、公園内はれっきとした車道が縦横に走る。全く解せない。
黒澤明の晩年の作品『夢』(製作スピルバーグ)を思い出す。宅地開発で山を切り開いた建設業者が、夢でうなされる。樹木の霊から「俺たちを切っただろう」と責められて。
五輪が終わってみたら、代々木公園の自然が見るも無残に破壊されている。恐ろしい夢を見そうだ。
~終わり~
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