云々(うんぬん)を「デンデン」と読んだ前首相と、ASEANをアルゼンチンと言った現首相。
知性とは対極にある2人にとって不可思議な世界が官邸前に連日、現出する。
まったく つながり のない老若男女が日本の権力中枢の前で黙々と本を読むのである。
官邸前でハンストを続ける菅野完が呼びかけたわけではないが、菅野の姿勢に共鳴した人々が、来たい時に来て、帰りたい時に帰るのである。菅野の姿勢とは、知性で反知性に立ち向かうことだ。
「きょうは会社が休みなので茨城から来た」という男性(30代)は「本を読むことが抵抗だ」と けれん味 もなく言った。
男性が読んでいたのは『飛ぶ教室』(エーリヒ・ケストナー著)。児童書の定番だ。「子供の頃から勉強し直せ」…安倍、菅への無言で強烈なメッセージだ。
仕事を終えてやって来る男性(40代)は、LED電球の灯りで本を読む。男性は非正規労働者だ。「この20~30年で(我々の人生を)メチャクチャにしやがった」。
ドイツのメルケル首相、台湾の故李登輝総統とまでは行かなくても、総理に一国のリーダーと呼ぶにふさわしい知性があれば、日本はここまでひどい国にならなかったはずだ。
「ここで本を読んでいるのは反知性への当てつけだ」。男性は表情にこやかだったが、言葉には恨みがこもっていた。
名古屋から訪れた女性(自営業)は「お友達で決めちゃってズルイ」と政権を批判する。
本を読みに来たのは「拳を突き上げるのが好きでない。静かなプロテストがいいから」。彼女も「反知性へのあてつけ」と言った。
「きょうは日曜日なので子供の世話をしなくても済むからここに来た」という主婦(都内)は、官邸前の読書を「新しいカウンターの仕方」と呼んだ。
「ここに本を読みに来ると『学術会議(への人事介入)の抗議に来ました』と警察が無線を飛ばす。それを体感したくて来た」。主婦はいたずらっぽく笑った。
自らの知性を高めて反知性の官邸に対抗する。それが静かな脅威であることは、権力側も認めているようだ。
~終わり~